「北の山・じろう」時事問題などの日記

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現在の達成率は25パーセント! 理想先行で決定したものの、現実には難航を極めるドイツの脱原発事情<現代ビジネス>

現代ビジネス
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川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」
2012年11月02日(金)
現在の達成率は25パーセント! 理想先行で決定したものの、現実には難航を極めるドイツの脱原発事情
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▼全文引用

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Grapzow近郊のウィンドパークで建設中の風車〔PHOTO〕gettyimages
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 思えば去年の夏、ドイツ連邦議会での脱原発決定は感動的だった。40年来の悲願が叶った感動で、緑の党の古参議員などは涙ぐんでいたほどだ。国会議員も普通の国民も、挙って脱原発を祝い、有頂天になった。懸念の声は、あっという間にかき消された。

 しかし、こうして勇ましく始まったドイツの脱原発は、現在、混乱を極めている。あまりに難航しているため、今年の5月には環境相の首がすげ替えら れたが、新しい環境相は現状の困難を国民に知らしめただけで、事態の進展はまるで見えない。見えてくるのは、あちらこちらで起こっている責任のなすりつけ 合いばかりだ。

 与党が脱原発を軽く見過ぎていたという非難も出ているが、脱原発は与党が強引に押し通したわけではなく、ほぼ全会一致で決ったことだ。しかも、長 年、脱原発を提唱してきたのは、緑の党SPD(社民党)だった。理想に走り過ぎていたのは、どちらかというと、彼らのほうではなかったか。

助成金は一般家庭と中小企業が負担

 10月16日、来年の電気代が発表された。正確に言うと、電気代に乗せられている助成金の、来年の額が決められたのだ。ドイツでは、1991年に できた再生エネルギー買取り法(2000年に再生エネルギー法として改定)に基づき、再生可能エネルギーで発電された電気は、20年に亘って全量買取りが 保障されている。

 巨大なソーラーパークやウィンドパークを経営している会社、あるいは、屋根の上にパネルを付けている一般家庭や、畑の片隅に風車を一本だけ立てている農家がそこで発電した電気はすべて、20年間、その土地の電力網を持つ送電会社が買い取ってくれる。

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 ドイツはずいぶん昔から、再生可能エネルギーの増進を図ってきた。エネルギーの供給を恒久的に確実にし、原油やガスの輸入に依存しなくて済むようにすること、また、再生可能エネルギーの技術の先取り、これらは国民経済の発展に大いにプラスとなるはずだ。

 しかも、再生可能エネルギーの推進は、道徳的に正しいことをしたいという、ドイツ人が常に心に秘めている願望にもぴったりと合致した。チェルノブ イリで懲りていたドイツ人は、恐ろしい事故を起こす可能性のある原発や、空気を汚す化石燃料による発電よりも、自然で安全でクリーンなイメージの再生可能 エネルギーに大いに憧れていたのである。そこで、その推進のために買取り制度というアイデアが生まれ、法律になった。

 もっとも、再生可能エネルギーの生産にはお金がかかるので、それを助成するための買取り価格というのは、当然、市場の電気の価格よりも高い。そう でなければ、誰もそんな物に投資しない。つまり、買取り制度は、需要と供給に基づく市場原理とはまるで違った次元のところで営まれていることになる。

 とはいえ、高く買い取った電気は、もちろん、そのままでは市場に出せない。そこで、市場の値段まで下げるため、差額分を誰かが負担して、埋め合わせなくてはならない。ドイツでは結局、差額分はそっくり電気代に乗せられ、消費者が負担させられている。

 ただし、電気を大量消費している大企業は、その負担を免除、あるいは、軽減されている(年間1ギガワット時以上使うと9割引き、10ギガワットだ とほぼ免除)。大企業の国際競争力がなくなると困るからだが、助成金が一般家庭と中小企業の負担になっているという事実が、一般国民のあいだに不公平感を 増長させていることも確かだ。

電気代の値上げは元々わかりきっていたはず

 今年の一般家庭の電気代には、1キロワットあたり3.59セントの助成金が乗っており、それが来年は5.27セントになるという。ほぼ50%増し だ。このニュースが出る前から、巷では"すわ、電気代高騰!"と大騒ぎだが、この金額が本当に多いのか、それともたいして多くないのかが、私にはよくわか らない。平均的な4人家族の家庭では、来年の助成金負担の合計は180ユーロ+19%の消費税で2万円強、そのうち値上げ分が60ユーロ+税金で 8,000円ほどだそうだ。 

 ただ、ここ1年のガソリンの値上がり分は、これとは比べ物にならないほど大きい。すでにたいていの人は、1回の満タンで8,000円ぐらい払って いる計算で、しかも、多くの家庭には2台ぐらい車がある。だから、1年に8,000円の値上げ分は、一般のドイツ人にとって払えないほど高いわけではな い。

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 もちろん、今後、助成金が膨れ上がっていくことは確実で、電気代自体ももちろん上がる(電気代は契約する電力会社によって違うので一概に言えな い。安い会社と高い会社で少なくとも2倍の幅が出る)。なお、後で述べるような、洋上発電の開発にかかる莫大な経費も、必ず電気代に影響してくる。

 つまり、今回の大騒ぎはそれらを見込んでのものなのかもしれないが、しかし、私に言わせるなら、脱原発にあれほど大賛成をしておきながら、電気代の値上げに文句を言うのは理屈に合わない。元々わかりきっていたことではないか?

 ドイツの脱原発という壮大なプロジェクトはたいへん難航している。タイムリミットは2023年。再生可能エネルギーで生産した電気を、20年までに全体の35%に、50年には50パーセントにするというのが最終目標だ。現在の達成率は25パーセント。

 ドイツの再生可能エネルギーで一番期待されているのが風力で、グングン伸びている。太陽の照らない国の太陽光発電とは違い、風の吹く国での風力発 電だから辻褄もあっており、助成金も太陽光発電のように多くは食わず、発電量も多い(2011年は全発電量の7.6%)。このままいけば、将来ほぼ採算が 取れるところまでいきそうだ。

 それにもかかわらず風力発電がまだちゃんと実用化できていないのは、できた電気を蓄電できないことと、送電線の敷設が遅れているためだが、それは 別問題。一方、太陽光発電は、送電線や蓄電の問題が解決したとしても、採算の合うところまで行くことは永久にないだろう。それでも、悲しいかな、ソーラー パネルはどんどん増えていく。

洋上発電には、環境問題が大きな障害となる

 さて、陸の風力発電はいいが、洋上のほうは遅々として進まない。ドイツ政府は、2020年までに洋上発電で1万メガワット、30年までには2万5 千メガワットの電気を生産しようと目論んでおり、現在、126のウィンドパーク(計8900本の風車)の建設が許可されているが、施工の始まっているのは うち6ヵ所で、完成しているのは、2ヵ所のみ。何と言っても、技術が難しいらしく、投資家も足踏みしている。

 風車といってもその規模は巨大で、支柱の長さは70〜90メートルにも及ぶ。それを水深20メートル、あるいは、もっと深い所に打ち込むのだか ら、基礎を作るだけでも大変な作業だ。しかも、北海もバルト海も波が荒いため、作業員の3分の1が船酔いで使い物にならなくなるのだとか。また、第2次世 界大戦のとき、イギリス空軍は燃料を節約するために、余った爆弾を北海に落として帰還した。したがって、掘削の前に不発弾の探知をし、見つけては引き上げ ているので手間暇がかかる。

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 さらに、洋上発電の計画にとっては、環境問題も大きな障害となっている。そこに生息する小さなナントカ鯨を保護するために、掘削の騒音が制限され たり、水泡のカーテンによる保護壁を設置したりすることも義務付けられた。せっかく計画を立てたのに、その水域が水鳥の生息地であるということがわかり、 すべてご破算になったウィンドパークもあるという。

 なお、高速で回る風車は見えにくいため、鳥が飛び込む危険性が高い。渡り鳥は、天候が悪いときには光に向かって飛ぶ習性があるらしく、霧にかすむ 風車の点滅光のせいで大量自殺が起こる可能性もある。その他にも、環境保護団体の抗議は長いリストとなっていて、対策がなかなか難しい。

 ただ、洋上風力発電の最大の障害は、ドイツ人が自分で作っている。景観を損ねないために、風車を岸から見えないところに建てようとしているのだ。 遥か彼方で作った電気を海底ケーブルで長距離にわたって運ぶためには、交流の電気を巨大なコンバータによって高圧の直流電気に変換しなければいけないらし い。これを陸ではなく、遠い洋上で行おうとしているのだから、技術的に困難なだけでなく、コストがバカ高い。実用化のめどはついていない。

原発推進国に囲まれる脱原発のドイツ

 新しい環境大臣は、就任してから半年になるが、これといった成果を上げられずにいる。買取り制度にもメスを入れるつもりらしいが、電力会社、送電 会社、産業界、国、州、再生可能エネルギーの生産者、消費者と、様々な利害と思惑が絡むので、おそらく一筋縄ではいかないだろう。ただ、野党が攻撃するよ うに、何も効果が上がらないのは環境大臣が無能だからだとは国民は思っていない。目標があまりにも困難なのだと、気づき始めている。

 最近、ドイツの周辺国の原発建設の予定が報道された。それによると、ヨーロッパでは原発建設がブームのようだ。特に、東欧諸国とロシアが熱心。ロ シアは、天然ガスは西ヨーロッパに高く売れるので自国で消費するのはバカバカしい、という考えのようだ。自分たちの電気は原発で賄おうとしている。

 一方、東欧の国々はロシアに首根っこを押さえられたくないから、原発を建てようとする。さらに、そのうちドイツで電力が不足したら、原発で発電した電気を売ってくれるつもりなのだろう。

 これだけの犠牲を払ってまで完全脱原発再生可能エネルギーの推進を貫徹しようとしているドイツが、将来、原発の国に囲まれてしまうというのは、何だかとても悲しい図に思えて仕方がない。

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