「北の山・じろう」時事問題などの日記

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"脱原発"を支えるのは政府や大企業に頼らない市民の実行力だ! 南ドイツの「地域暖房」や「エコハウス」を視察して感じたこと<現代ビジネス>

現代ビジネス
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町田徹「ニュースの深層
2012年10月23日(火)
"脱原発"を支えるのは政府や大企業に頼らない市民の実行力だ! 南ドイツの「地域暖房」や「エコハウス」を視察して感じたこと
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▼全文引用

(1)
フライブルク市で最初に建ったパッシブハウス(筆者撮影)
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 「黒い森」南部の保養地セント・ペーター村で、地元の林業エンジニアが中心になって事業化に漕ぎ着けた廃材利用の「バイオマス地域暖房」システム。補助金はもちろん銀行融資さえ受けられなかった時代に市民が建てたフライブルク市ボウバン地区のエコマンション――。

 先週(10月16日から6日間の日程で)、視察した南ドイツで、センスの悪い政治家や既得権に拘るユーティリティ企業に依存することなく、市民たちが自らの手で再生可能エネルギーへの切り替えや節電に取り組む姿を見ることができた。

 ドイツでは、こうした市民たちのコミュニティベースの取り組みが端緒になって国策が見直されている。福島の原発事故を機に原発への反対を強める多 くの国民と、そうした要求を経済性・実現性を無視した空理空論と決め付ける経済界の間の大きなギャップを埋められないでいる日本にとって、とても大きなヒ ントになり得るのではないだろうか。

ビジネスとして成功したバイオマス

 北九州市など国内の環境都市のモデルとして名高いフライブルク市から車で小一時間。海抜720m前後のカンデル山中腹に広がる、セント・ペーター 村。決して広大な面積を持つわけではないが、1093年に大きな修道院が築かれたのがきっかけで開かれた歴史あるヨーロッパらしい古い山村だ。

 1890年代に、その修道院が閉鎖された時と、1970年代から80年代にかけて「酸性雨」に見舞われた時の2度にわたって、セント・ペーター村は存亡の危機に見舞われたものの、なんとか切り抜けてきた歴史を持つ。

 現在の村の人口は2550人。ギリシア、スペインの財政破綻に端を発した欧州経済危機の真っただ中にあって、環境・エコを売り物に高成長を維持し て失業率を3%前後に抑え込んでいるフライブルク市の北東に隣接する幸運もあって、「人口は増加傾向にある」(ルドルフ・シューラー村長)。

 そのセント・ペーター村に、今年1月、村民の自慢のタネがまたひとつ増えた。復活した「黒い森」の林業の副産物である廃材をチップ化したバイオマスを主たる燃料に使う地域ぐるみの暖房施設が稼働したのだ。

 この暖房施設は、バイオマス燃料でお湯を沸かし、地下に埋設した全長9.2kmの配管を通じて200戸に熱湯を循環させて地域ぐるみで暖房をする仕組みだ。

 この設備でのバイオマスの使用率は全体の95%あまりに達する。石油はバックアップ用に限定しており、その使用量は5%程度に過ぎないのだ。この 結果、これまでと比べると年間約80万kl分の石油を節約できたばかりか、同じく2100㌧分のCO2の排出削減(効果)も実現したという。
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 何よりも凄いのは、主燃料の木材チップが従来は使途がなく廃棄していたもみの木などの廃材を原料としていることだ。この結果、事業主体は住民組合 の形式であり、営利事業ではないにもかかわらず、「ビジネスとしても高い採算を誇っている」(マルクス・コナード理事)という。

 その省エネ効果の高さや地元産のバイオマス燃料の使用比率の高さが評価されて、EU、ドイツ連邦政府(復興金融公庫)、バーデンバーデン州の3主体から総投資額の520万ユーロ(約5億2000万円強)に対して、4分の1に当たる125万ユーロの政策支援を受けた。

 これにより、住民組合は給湯ネットワーク1mに付き80ユーロ、住民は引き込み工事1戸に付き1800ユーロの補助を受けている。

 暖房の使用料金は「民間のユーティリティ会社のそれより平均で3割程度安い」うえ、料金構成も、住民にとってありがたいものだ。一般のユーティリ ティ企業の場合、使おうが使うまいが必要な基本料が70%、使用量に応じた従量部分が30%の構成になっているが、セント・ペーターの住民組合ではこれが 逆になっているという。

 これ以外に、住民組合は風力や太陽光の発電設備を保有、発電も行っているが、潤沢なキャッシュフローを活用して、来年1月をめどに木材バイオマスのガス化発電を導入する計画だ。

 セント・ペーター村の積極的な取り組みの推進役として見逃すことのできない働きをしているのが、前述のマルクス・コナード理事のような人物だ。

 コナード氏は、地元の林業のエンジニア出身で、黒い森の2200ヘクタールに及ぶ地域の維持・管理を担当してきた。旧ソ連のチエルノブイリ原発事 故や地球温暖化問題に触発されながら、大量に廃棄されていた木材の破片の再利用に着目。エネルギー分野の知識を取得して、当初11人の仲間を集めて運動の 核を作り、最終的に200人のコミュニティをまとめあげて、組合活動を進めてきたという。

パッシブハウスの建設ブームをおいかける政府

 今回の視察でもう一つ、筆者が大きな刺激を受けたのが、画期的な節電を可能にするという「パッシブハウス」のフライブルク市のボウバン地区での誕生の物語だ。

 パッシブハウスそのものはすでに日本でも随分紹介されているが、それまでドイツの標準的な家屋で1㎡当たり年220kwh程度だった暖房用のエネルギー消費を、その15分の1近い同15kwh程度に削減できるという画期的なエコ住宅だ。
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 その誕生物語は、1995年から翌96年頃に遡る。当時、公的機関の補助金は研究開発サイドに限定されており、一般の商業金融機関からは狂気の沙 汰とされ、建設資金の融資さえ受けられなかった時代だったにもかかわらず、理系の教育を受けた有志が集まって自腹で素材の調達費や建設費を出し合い、同市 で最初のパッシブハウスの集合住宅を建設したというのである。ここに掲載した写真を見ていただきたいが、この4階建ての20戸を対象にした集合住宅が、そ れである。

 その後、フライブルク市では、こうしたエコな住宅こそが時代の先端をゆくものであり、こうした住宅に住むことに価値を見い出す市民が多かったことから、この種の住宅の建設ブームが起きたという。

 現在、周辺では、パッシブハウスだけでなく、使用するエネルギーより生産するエネルギーの方が大きい「プラス・エナジー住宅」も加わり、様々なエコハウスが所狭しと建設されている。

 ベルリンの出身でフライブルクに引っ越して、ご本人もプラス・エナジー住宅に居住するという、フライブルク・フューチャーラボのディレクター、ア ストリド・マイヤーさんは「物件が市場に出回るようなことはなく、コネでもないと入居できない状態が続いている」と人気の高さを裏付ける話をしていた。

 結局のところ、こうした人気を無視し続けることができずに、ドイツでは現在、連邦政府(復興金融公庫)の補助金や低利融資を行う制度ができているが、これらの制度は、市民が火を付けたブームに政治が追随したに過ぎないというのである。

市民が答えを出す

 さらに、今回の視察では、ようやく整備された政策支援を批判する声があることも判明した。

 この分野の建築・設計を専門とするカールスベール工科大学のクリストファー・クム教授は講演で、「政府は政策補助の発動基準を設けるにあたって、 達成すべき目標を掲げることに徹するべきで、使用する技術に細かく口を出すのは不適当だ。創意工夫の芽を摘んで技術革新を阻害することになりかねない」と 強調していた。

 余談だが、同教授は、今日のようにエネルギーが潤沢でなかった時代にこそ、その土地の風土を活かした建築が為されていたという伝統的な建築のノウ ハウの活用を重視する人物だ。2度にわたって訪日したにもかかわらず見学を許されなかったが、写真などからみて京都の桂離宮が湿度の高い日本の風土に適し ているという説も披露していた。
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 福島原発事故以降、政府のエネルギー・環境政策の見直し議論を取材してきた筆者がこれまで何度も直面したのは、実現性や経済性の議論は二の次にし て、原発再生可能エネルギーへの早急な置き換えを求める市民団体の声と、そうした対応はエネルギーコストの急騰を招いて企業の国際競争力を削ぐと懸念す る経済界の深刻な意見のすれ違いだ。

 しかし、今回のドイツ視察で、日本でも重要性が指摘されながら、政府の「画期的エネルギー環境戦略」(9月18日決定)などではほとんど顧みられ ることのなかった住宅分野の節電の重要性や、コミュニティレベルで採算が取れる地産地消型のエネルギーシステムの構築に関して、政府やユーティリティの大 企業に決して頼ることなく、市民が独力で答えを作り出していく逞しい姿を目の当たりにした。

 そうした実行力が、冷ややかだった政治家や企業の抵抗姿勢を改めさせる起爆剤になっていたのである。

今回の視察では、太陽熱の利用のように、日本企業が採算が採れないと数年前に事業化を断念した技術の開発に拘るドイツ企業を始め、容易にはお手本にできないと映るものも存在した。

 しかし、ここに紹介した市民の取り組みや、新技術の実用化の障害になりがちとされるドイツ独特の徒弟制度の弱点を補うための地元中小企業と専門学校の人材育成の試みなど、無視できないものも豊富にあった。

 今一度、こうした海外の経験を総点検して学ぶ姿勢が、閉塞感の強い日本のエネルギー環境問題の見直しには欠かせないのかもしれない。

著者:町田 徹
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町田徹「ニュースの深層