「北の山・じろう」時事問題などの日記

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この国と原発:第6部・輸出の最前線で今/中 「エネルギー不安一掃」ヨルダン建設計画<毎日新聞

毎日新聞
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この国と原発:第6部・輸出の最前線で今/中 「エネルギー不安一掃」ヨルダン建設計画
毎日新聞 2012年07月12日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120712ddm002040085000c.html
▼全文転載


(1)
写真http://mainichi.jp/graph/2012/07/12/20120712ddm002040085000c/001.html
http://mainichi.jp/graph/2012/07/12/20120712ddm002040085000c/002.html

 ◇日仏、砂漠の「楼閣」

                         

 地平線まで続く赤茶けた砂漠。周辺360度、視界を遮るものは何もない。ヨルダンの首都アンマン(人口110万人)から北東に約40キロ。マフラク県の砂漠に原発の建設予定地はある。

                         

 砂漠を貫く舗装道路を車で飛ばした。周囲には看板もフェンスもないが、原発の予定地という「デリケー ト」な土地だからか、車を降りると、ヨルダン人通訳が「警察に見つかると、拘束される」とまくし立てた。そこから南数キロにある、原発に水を供給する予定 の下水処理場。そのフェンスもまた固く閉ざされ、近づくと何やら大声で叫ぶ警備員に追い立てられた。

                         

 ヨルダンは07年、同国初となる原発の建設計画を発表した。その後、明らかにした予定地は砂漠のど真ん 中。19年の稼働予定で、出力100万キロワットの中型の原発建設を目指している。この「砂漠の原発」の受注を狙うのが、三菱重工業とフランスの原発メー カー「アレバ」の日仏連合だ。

(2)

 原発は大量の冷却水を必要とする。通常運転時はもちろん、昨年3月の東京電力福島第1原発のような事故がひとたび起きれば、冷却水の喪失や不足は 炉心溶融に直結しかねない。日本に50基ある商業用原発は全て海沿いにあり、世界的にも川や海のすぐ近くに建設されるのが一般的といえる。ところが、ヨル ダンの原発の建設予定地は、最も近い水源のヨルダン川まで50キロ以上。同国南部のアカバ湾までは約400キロも離れている。

                         

 それでもヨルダン側は自信満々に「水の確保には問題ない」と断言する。冷却水には下水処理場の処理水を利用する他、緊急用の貯水池も整備するという。既に米アリゾナ州で、同様に下水の処理水を利用する原発が運転中ということも自信を裏打ちしている。

                         

 「原子力を使う利点は大きい」。力説するのはヨルダンの核エネルギー政策の実質的責任者、ハレド・トウ カン氏。同国原子力委員会委員長でもあるトウカン氏は取材に「低価格で安定した電力供給、水の確保、工業の発展と雇用の創出」と次々利点を挙げた。福島の 事故後も方針は揺るがない。

(3)

 ヨルダンは天然資源に乏しく、エネルギー需要の約95%を輸入に頼っている上、安定確保には不安がつきまとう。北は内戦状態のシリア、西はアラブ 諸国と対立するイスラエル、そして東にイラクという位置取りは、まるで「火薬庫」の中。エジプトから敷く天然ガスのパイプラインは武装勢力の攻撃で昨年 来、十数回も爆破されたが、原発ができればエネルギー確保の不安は一掃される。

                         

 それどころか、砂漠国特有の深刻な水不足さえ、原発で解決することをもくろむ。同国の国民1人当たりの 年間利用可能水量は160立方メートルで、国際的な水不足の基準となる1000立方メートルの2割にも満たない。大量の電力で脱塩装置を稼働させ、アカバ 湾からくみ上げた海水を脱塩し、ポンプで全国に給水する動力の全てを原発の電力で賄おうという算段だ。

                         

 しかも、利用できる水が増えると下水処理場で処理する水量が増え、結局は原発を冷却する大量の水も確保 できるはず。原発が生み出す好循環への期待は大きい。そして、ここまで力を入れるもう一つの理由が、07年に発見された埋蔵量世界11位のウラン鉱の存在 だ。「将来は自国のウランを使い、電力も輸出する」とトウカン氏の鼻息は荒い。

                         

 ヨルダンが直面する全ての問題を一度に解決する夢の事業こそ原発建設なのか。産油国が力を振るってきた中東の勢力図を書き換える--。そんな思惑さえにじんで見えた。

                         

 ◇「水確保に不安」 広がる反対論

(4)

 原発でバラ色の未来を描く人たちばかりではなくなっている。おおっぴらに政府を批判できなかった王制のヨルダンでも、リビアのカダフィ政権崩壊など中東で昨年吹き荒れた「アラブの春」に触発され、反原発の声が上がり始めているのだ。

                         

 アンマンの環境保護団体代表、バセル・ブルグンさん(51)は「アラブの春で人々は思っていることを口にできるようになった」と言う。09年に活動を開始して以来、ずっと掲載を拒否され続けた反原発の意見書が、大手新聞にも掲載されるようになった。

                         

 原発建設予定地のマフラク県で文具店を経営するファイエズ・マダルメさん(46)は福島の事故直後、反原発団体「イルハモウナ」(アラビア語で「神のあわれみを」の意味)を結成した。わずか6人で始めた運動は、1年で会員が2700人に増えた。

                         

 「平常時の運転ならともかく、問題は事故があった時だ。フクシマの事故で原子炉と使用済み燃料を冷やす ために使った大量の水を考えると、下水の処理水ではとても足りない」。北部イルビドの大学講義室では、ヨルダンの原子力工学の第一人者、ネダル・ゾアビ博 士(50)が聴衆に原発計画反対の理由を説明していた。

(5)

 福島の事故をきっかけに計画反対に転じたゾアビ博士は4月、政府の原子力委員会の核燃料サイクル理事職を解任された。政府の内情も知るゾアビ博士 は、日仏連合が安全性をアピールする原発のタイプについて「世界でまだ一基も稼働実績がない。技術的な蓄積のないヨルダンに建てるのは高いリスクがあり、 罪だ」と訴える。更に、発見されたウラン鉱も質が悪く、採掘は成り立たないと指摘する。

                         

 ヨルダンの議会下院(定数120)は5月30日、計画の「中断」を政府に勧告した。冷却水不足が最大の理由だった。それでも、同国政府の発注先決定は年内とも言われている。

                         

     ◇

                         

 昨年11月30日の衆院外務委員会。山口壮副外相は野党の質問に「冷却水については大丈夫だろうと思います」と答えた。不安定な安全保障面についても「ヨルダン政府から聞いていく中で、大丈夫であろうと総合的に判断しています」。

                         

 三菱重工も冷却水確保について「排水処理水で必要量を確保できる計画になっており、問題ないと考えます」と回答。しかし、更に必要な水量を詰めようとすると「現在、入札中で明らかにできない」と言葉を濁す。

                         

 この計画を知る国内の原発関係者は皮肉っぽく言う。「水が無い内陸部に建設するのは、なかなか度胸がいるよ」

この国と原発 アーカイブ2012年
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