「北の山・じろう」時事問題などの日記

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政策決定、マスコミ関与 建設資金、電力債拡大の審議会{この国と原発:第7部・メディアの葛藤/10

★平成24年(2012年)分は、これで完結です。このような、連載記事を掲載してくれる毎日新聞に感謝いたします。


毎日新聞

ホーム>http://mainichi.jp/
この国と原発:第7部・メディアの葛藤/10止 政策決定、マスコミ関与 建設資金、電力債拡大の審議会
毎日新聞 2012年11月04日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20121104ddm003040115000c.html
▼全文転載


(1)

 東京電力福島第1原発事故を目の当たりにし、田中洋之助・元毎日新聞論説委員(89)は後悔している。現職当時の70年代半ば、電力会社の社債 (電力債)発行枠拡大を議論した旧通商産業省電気事業審議会(現経済産業省総合資源エネルギー調査会電気事業分科会)にメディアから唯一、学識経験者委員 として参加した。「あれで中小の電力会社まで原発を持てるようになった。東電の社債は日本の金融システムを左右するほど巨額になってしまった」

                         

 電力会社は戦前から、低利で長期間調達できる社債で設備投資の多くを賄ってきた。かつての商法は一般企 業に対し、債権者保護を理由に純資産額、または資本金と資本準備金を合計した額を超える社債の発行を禁じていたが、電力会社は例外的にその2倍まで発行が 認められていた。

                         

 しかし、73年の石油ショックで資金難に陥った電力業界は、社債発行枠を5倍程度に拡大するよう求めた。74年11月15日の電事審議事録にこうある。

                         

 玉置委員「社債発行枠の拡大についても検討する必要がある」

                         

 田中委員「資金問題は重要であり、検討する組織を作る必要があるのではないか」

(2)

 このやりとりで、電事審に「資金問題懇談会」を設置することが決まった。「玉置委員」とは当時の東芝社長で元通産事務次官の玉置敬三(たまきけいぞう)氏。経済部出身の田中氏は「僕も事前に電力業界から希望は聞いていたので、自然な流れで発言した」という。

                         

 資金懇は75年10月、「社債発行枠拡大に法的措置を図るべきだ」とする意見書を河本敏夫通産相(当 時)に提出。翌76年6月4日に特例法が施行され、電力債の発行枠は4倍に拡大された。石油ショックを受けて原発増設を加速させようとしていた国にとって も不可欠な措置だった。

                         

 田中氏によれば、背景には経営規模の小さい北海道、北陸、四国の3電力が原発建設を熱望していたこともあった。「原発がなければ一流の電力会社ではないという雰囲気があった」。この3社で当時、原発建設計画が具体化していたのは四国電力だけだ。

                         

 資金懇には田中氏の他、朝日新聞、日本経済新聞の論説委員も1人ずつ参加した。10カ月の議論の間、他 の新聞出身委員が何を発言したか田中氏は記憶していない。ただ、田中氏は、経済学者の渡部経彦(わたなべつねひこ)大阪大教授(当時)だけが電力債発行枠 の拡大に異を唱えたのは覚えている。

(3)

 渡部氏の反対論は(1)小さな電力会社に原発を持たせるのは経営的なリスクが大きすぎる(2)社債市場が電力債に独占される恐れがある--の2 点。田中氏は原発そのものに反対ではない。ただ「今になってみれば、渡部さんの意見は正しかったと思う。事故を起こしたら、小さな電力会社はとても持たな いのではないか」と言う。

                         

 田中氏らが電力債発行枠の拡大を提言した頃、政府の審議会では多数のメディア関係者が委員を務めてい た。毎日新聞論説委員から筑波大助教授に転じていた天野勝文氏(78)が88年時点の実態を調べると、その数は178の審議会で121人に上っていた。 「権力側に『取り込まれている』と疑われるようなことをやってはいけない」と天野氏は話す。

                         

 以降、こうした批判が厳しくなり、現在メディア出身委員は当時に比べて減っている。

                         

 電事審にメディア出身委員が入っていた理由について、経産省資源エネルギー庁は「当時のことは分からないが、一般論としては、中立的な立場として入ってもらうことはあると思う」(電力・ガス事業部政策課)と説明する。

(4)

 田中氏は「政府の情報が取れる。政策に意見を言う機会も得られると考えて委員を引き受けた。マスコミ委員は利害関係者ではないから、総合的な判断 ができると思う」と話す。ただ、電力債発行枠拡大を巡る議論については「あえて反対する空気ではなかった。原発は主流になり始めていて、どの電力会社も持 ちたいのだろうと思っていた」と振り返った。

                         

 そうして決まった国策の果ての原発事故。田中氏も「あれでよかったのか」との思いは消えないという。=おわり

                         

      ◇

                         

 この連載は日下部聡、袴田貴行、福島祥、鯨岡秀紀が担当しました。

                         

 ◇発行枠拡大「重荷」に 体力問わず建設推進、法的整理の足かせ

                         

 電事審の資金懇で渡部氏が予測した電力債発行枠拡大による影響は、どんな形で現実化し、「重荷」となっているのか。

                         

 福島第1原発事故のあった10年度、東電の売り上げは5兆円余りだった。一方、北海道、北陸、四国の3 電力は6000億円以下で、最も少ない北陸電力は4941億円。同社が87年、国に提出した志賀原発の原子炉設置許可申請書には総工費8500億円(実際 は6600億円)のうち2800億円を社債で調達するとの資金計画が添付されており、電力債の役割の大きさが表れている。

(5)

 「水力に恵まれている北陸電力原発なしでもやっていけたと思う」と指摘するのは、同社など電力7社の社史編集に携わった橘川武郎(きっかわたけ お)・一橋大教授(経営史、エネルギー産業論)。「しかし、70年代以降、電力会社は横並びで行動するようになった。北陸電力原発を造らないわけにはい かなかった」

                         

 橘川氏によると、電力業界は70年代、公害の問題化で火力発電所の立地難に直面。建設地の選定や放射性 廃棄物処理に国の関与が不可欠な原発の導入で、政府への依存は決定的になった。電力債の発行枠拡大もこの「国策民営」体制の表れであり「電力会社の大小を 問わず原発を造りやすくした」と見る。

                         

 11年3月に54基あった国内の原発のうち、発行枠が拡大された76年6月以降に設置が許可された原発は61%の33基。電力債の発行残高と原発の基数の推移は比例する。

                         

 93年の商法改正で社債の発行制限自体が撤廃されるまで優遇は続き、この間、電力債の発行残高は増加。 98年をピークに漸減しているものの、トップの東電は現在約5兆円あり、日本の社債市場の8%を占める。万一、債務不履行ともなれば、大量に保有している 金融機関に影響が及ぶ。

(6)

 それだけではない。電気事業法は電力債の債権者が優先的に返済を受ける権利を認めているため、賠償請求権を持つ被災者への賠償支払いより電力債を 保有する銀行などへの返済が優先される。法的整理をすれば、ほとんどの資産が社債の返済に充てられ、賠償金や廃炉のための費用が失われかねない--という のが政府の見解だ。

                         

 今年4月13日の衆院経済産業委員会で、枝野幸男経産相は「東電は法的整理をした方がいいと思っている」とした上で「どうしてもひっかかるのが電力債です」と述べた。

この国と原発 アーカイブ2012年
http://mainichi.jp/feature/20110311/konokunitogenpatsu/archive/news/2012/index.html

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