「北の山・じろう」時事問題などの日記

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TPPの本協議はまだ始まっていない! 反対派の不安を煽るよりもまず、オバマ政権に「ファストトラッ

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町田徹「ニュースの深層
 2013年04月02日(火) 町田 徹
TPPの本協議はまだ始まっていない! 反対派の不安を煽るよりもまず、オバマ政権に「ファストトラック」獲得要求を!
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▼全文転載



(1)

安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を公式に表明してから半月あまりが経過した。メディアには、相変わらず、米政府の強硬姿勢を演出して懸念を煽るような報道や、反対派の不満を代弁するような記事が後を絶たない。

 背景にあるのは、日米2国間の事前協議の内容について、両政府が開示しない方針を採っていることだろう。これが災いして、何か不都合なことが起きているに違いないと取材・報道する側が必要以上に疑心暗鬼になっているように映る。

 しかし、筆者がより突っ込んで取材をしたところ、そうした記事は、事実を正確に伝えるとは言い難いという印象を持った。むしろ、ようやく日本が交 渉参加を正式表明したことを、とりあえず歓迎するムードが事前協議の米側窓口には強いようだ。自動車や保険といった個別の問題を含めて、強硬かつ理不尽な 要求を持ち出した形跡は確認できなかった。

 そこで、あえて、この段階で、政府に対米要求として掲げて貰いたい問題がある。それは、本来、米議会の権限である通商に関する外交交渉の権限を大統領府に委ねる「ファストトラック」(一括承認手続き)の獲得だ。

 今後、両政府がギリギリの交渉の末に辿り着くであろう妥協案が議会による卓袱台返しに遭うリスクをなくすため、是非、早期に「ファストトラック」を獲得するようオバマ政権に働きかける必要性があるのではないだろうか。

自由貿易は日本の生命線

 「今がラストチャンス。この機会を逃すと、日本が世界のルール作りから取り残される」

 安倍首相は3月15日に官邸で開いた記者会見でこう語り、満を持して準備してきたTPPの交渉参加を正式に表明した。

 

(2)

 太平洋を取り囲む11ヵ国は、今年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での大筋合意を目指している。残された協議は、5、7、9月の3回だけ。

 日本がなんとか7月から協議に参加するためには、すでに日本の参加を事実上、了承、歓迎する姿勢を示しているチリ、シンガポール、ペルー、ブルネ イ、マレーシア、ベトナムの6ヵ国に加えて、農産物や木材の関税引き下げなどで日本と利害が対立し易い米国、オーストラリア、ニュージランド、日本に先駆 けて交渉参加を表明したカナダ、メキシコと事前協議を行って交渉参加の承認を取り付ける必要がある。そうした根回しに残された時間は、まさに残りわずか だ。

 自由貿易は、日本の生命線だ。列強の関税引き上げ競争とブロック経済圏の構築が引き金になった第2次世界大戦の轍を踏んではならない。

 自由貿易体制は、それぞれの国が相手国に比べて優位にあるモノやサービスを輸出し合い、相互に雇用機会を増やすことによって、それぞれの繁栄を保障し合うものだ。

 戦後の日本は、原材料を輸入して完成品を輸出する加工貿易や通商を足掛かりに、戦後復興と高度成長の道を切り開いてきた。

 リーマンショックを克服し切れず、尖閣諸島などの領土問題が存在する現状は、大恐慌満州事変日中戦争を抱えていた戦前と背景が酷似している。 それだけに、以前にもまして、自由貿易体制の維持と拡大が重要になっている。日本として積極的にTPPにコミットしていく重要性が増していることも言うま でもない。

米側の強硬姿勢を報じる記者たちの勇み足

 筆者は、チリ、シンガポール、ペルー、ブルネイの4ヵ国が「パシフィック4」という名で自由貿易協定交渉を進めて、そのTPPへの拡大を密かに日 本に打診してきた福田康夫内閣当時から、早期の交渉参加を主張してきた。歴代内閣が先送りを繰り返した結果、遅すぎた感はある。が、それでも救命ボートの 最後の空席に乗る意思を表明できたことは、発足から100日間あまりの安倍政権の施策の中では、最も意義深い事例と高く評価している。

 ただ、外交交渉では、双方が主張する成果を得るために、相互に譲歩することが避けられない。交渉の途中段階で、譲り合うカードをガラス張りにした のでは、それぞれの国内の反対派の不満が再燃し、交渉の妨げになりかねない。それゆえ、関係閣僚たちは、日米事前協議について「中身は言えない」の一点張 りだ。直接交渉を担当する官僚たちにも厳しい情報管制を敷いている。

 この秘密主義はある程度やむを得ないのかもしれない。しかし、こうした情報管制は、諸刃の剣だ。日々、政府の動向を取材している政治部、経済部所属の新聞記者たちがネタ枯れになるからだ。隠すのは何か悪いことが起きている証拠と早合点する記者もいる。


(3)

 そうした記者たちの勇み足としか思えないのが、日米事前協議の自動車、保険といった個別分野での米側の強硬姿勢を報じる記事だ。

 例えば、自動車では、日本独特の軽自動車優遇税制について、米国車の輸出を阻むものとして撤廃を迫っているとか、米側の乗用車2.5%、トラック 25%の輸入関税の引き下げをTPPに先んじて発効した米韓FTA協定よりも大幅に遅らせることを了解するように日本に迫ったと示唆する報道だ。

 具体例をあげると、3月22日付の日本経済新聞は「TPPを知る」という連載の中で、「米国との事前協議 車や保険 決着遠く」という記事を掲載し、「(米側の輸入関税を)当面保つ方針で折り合った」「完全な決着はまだ遠い。(中略)乗用車とトラックの関税を維持する猶 予期間をどの程度にするかも論点だ」と報じている。

 だが、筆者が政府やその周辺を取材する限り、そもそも軽自動車優遇税制の撤廃を米政府が要求しているという話は誰も聞いていないようだ。関税につ いても、本協議の場で議論すべき話なので、その際に、全体の行方を見ながら決定したい、というのが米側の意向だったというのが本当のところのようだ。

 つまり、本来、本協議の場で議論するテーマを、事前協議で取り上げなかったという当たり前の話に過ぎないのだ。それにもかかわらず、事前協議で決 着できなかった論点として報じるのは無茶としか言いようがない。米韓FTA云々の話もすでに発効しており、自由化が始まっている協定と同格で実施スピード を比較するのは筋違いだ。

一つの業界のエゴに固執せず全体の利益を直視せよ

 これらの記事を書いた記者たちは、フォードに代表されるデトロイト3の言い分とその影響力を過大に評価しているのではないか。業界の主張を、いちいち米政府がまともに事前協議で主張したとする報道は行き過ぎだ。

 むしろ、米有力紙ワシントンポストが3月15日付の「日本との自由貿易交渉の恩恵」と題した社説で、米自動車業の利益を代弁する連邦議会の議員グ ループがオバマ大統領に送り付けた書簡を槍玉に挙げて、「自由貿易の要点は双方の比較優位性を極大化できることであって、すべてのものの流れを等しくする ことを保障するものではない」と切り捨てていることにこそ注目すべきだろう。

 米国の良識あるメディアは、自動車という一つの業界のエゴに固執せず、全体の利益を直視せよと訴えているのである。

 問題の日経記事は、保険についても、「米国はがん保険などの市場での公正な競争を確保するよう要求。特に政府が株を持つ日本郵政グループのかんぽ 生命保険の新規参入に強く反発している」としているが、同社は斉藤次郎前社長時代にがん保険への早期参入の自粛を表明済み。がん保険は両国間の主要な争点 にはなっていない。

 

(4)

 そもそも、株式の政府保有を問題にするならば、21あるTPPの協議分野の中の「金融サービス」ではなく、「政府調達」や「競争政策」といった分野のはずである。

 余談だが、この分野は、自由競争の拡大に伴う消費者利便の向上よりも、現行のシェアを維持しようとする国内業界の既得権優先という業界エゴと、そ うした業界に肩入れする金融当局の問題が根底に潜んでいることも見逃してはならないはずである。が、最近の大手紙の報道には、そうした真相を追及しようと いう気概が見られなくなった。

オバマ政権にとってもファストトラックの獲得は避けて通れない

 ようやく事前交渉に辿り着いた今、期待されるのは、国内の反対派の懸念や不安をいたずらに煽るような報道ではない。

 冒頭でも述べたが、安倍政権はもちろん、新聞各紙にももっと関心を持って貰いたいのは、北米自由貿易協定(NAFTA)や米豪FTAなど過去の通商協議で不可欠だった「ファストトラック」を、オバマ政権が今なお議会から取り付けていない問題である。

 ファストトラックとは本来、「追い越し車線」「出世街道」などの意味で、転じて、米議会に帰属する外交交渉の権利の一部を大統領府に委託して、同 府が外国政府との間で合意した協定案に関して、議会に部分的な修正を行う権限を放棄させて、無修正で批准するか否かだけを問うことができる権利をいう。通 商法の重要項目で、1970年代に原型が確立されたが、94年から数年間にわたって失効、ブッシュ前大統領時代の2007年にも再び延長を拒否されて、今 日に至っている。

 日本など交渉相手国から見れば、国益がぶつかりあう米政府との交渉でギリギリの妥協点を見い出すことができたとしても、米議会の政治的エゴで修正を要求されて、せっかくの交渉結果を反故にされかねないリスクが存在しているのだ。

 米通商代表部(USTR)のマランティス代表代行はここへきて、米政府に交渉の当事者能力がないと言われかねない状態を解消するため、議会にファストトラックの付与を求める方針を強調し始めているという。

 与党・民主党内には慎重論が多くオバマ大統領には逆風だが、在任中の大きな業績のひとつとしてTPP交渉を妥結させたいのならば、ファストトラックの獲得は避けて通れない重要なステップだ。ここは安倍首相も、大統領の議会工作の側面支援を欠かしてはならないはずである。


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