「北の山・じろう」時事問題などの日記

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現代に蘇った「感じの良いヒトラー」が70年前と同じ主張を繰り広げる、興味深くも危険なベストセラー"Er ist wieder da"<現代ビジネス>

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川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」
現代に蘇った「感じの良いヒトラー」が70年前と同じ主張を繰り広げる、興味深くも危険なベストセラー"Er ist wieder da"
 2013年02月08日(金) 川口マーン惠美
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▼全文転載

(1)
YouTube
Er ist wieder da - Timur Vermes | Eichborn Verlag
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=05fFKGG5GOA
公開日: 2012/09/10

 私なら、「ヒトラーの復活」と訳すだろうか。原題は"Er ist wieder da"、そのまま英語にすれば、"He is here again"となる。去年出版されて、秋のフランクフルトのブックフェアで話題になり、今年1月、12刷が出た。驚愕のベストセラーだ。

 "彼"というのはヒトラーのことで、なぜか2011年の夏に、ベルリン市内のとある空き地で忽然と目を覚ます。頭上には青空。敵機襲来の気配はな い。横になったまま考えるが、状況が把握できない。夕べは何をしていただろうか。エファと一緒にソファに座って、そうそう、古いピストルを彼女に見せたっ け。でも、それからが思い出せない・・・。

 ようやく起き上がる。総統のユニフォームの埃を払う。ちょっと頭痛がするが、けがもない。それはそうと、なぜユニフォームがこんなにガソリン臭いのだろう(注:ヒトラーの遺骸は、死後、すぐにガソリンをかけて焼却された)。

 サッカーをしていたヒトラーユーゲントの少年たちに、ボルマン(ヒトラーの側近)の居所を聞いても埒が明かない。それよりも、誰も"総統"に気づかず、ハイル・ヒトラーの敬礼も忘れているとはどうしたことか!

 ベルリン市街のがれきはすでに撤去されたようだ。静かで、平和で、外国人が我が物顔に歩いている。トルコ人! あれほど中立を守ると言い張ったト ルコを、我々の味方に付ける説得がやっと実ったらしい。デーニッツ(海軍元帥)の功績か? いずれにしても、この明るいムードからすると、トルコ人の投入 は戦況を決定的に好転させたに違いない。そうだ、まずは情報が必要だ。

 そして、売店で新聞を見たヒトラーは愕然とする。2011年8月30日!!

(2)

現代社会の矛盾を鋭く分析するヒトラー

 このあと、勘違いが複雑に絡み合いながら、ヒトラーはまもなくテレビスターになってしまう。頭脳明晰な彼は、現在の社会状況を迅速に把握してい く。Eメールやケータイ、インターネットを使いこなすようになるまでに、それほど時間はかからない。テレビ局の中に事務所と秘書を与えられ、独自のショー 番組は大人気で、ファンがどんどん増えていく。

 もちろん、すべての人間、番組を作っている人間も含めて、皆がヒトラーをコメディアンだと思い込んでいる。本物に限りなく近い、ものすごく風変わりなコメディアンだ。

 しかし、ヒトラーは常に自分の信念を淡々と述べているだけに過ぎない。70年前とまるで同じことを、そのまま、ほとんど一字一句変えずに主張して いる。だからこそ、会話は往々にして勘違いのまま進み、それを聞く人は、ちょっとピントが外れていると思いながらやり過ごすか、あるいは、強烈なブラック ユーモアだと絶賛することになる。

 ヒトラーは、現代社会の矛盾を鋭く分析する。そして、規律や道徳や祖国への忠誠といった、かつてのドイツ人が大切にしていた価値観が崩落していることを嘆かわしく思う。子どもが生まれないのも国を弱くする原因だ。

 それらを正し、国民が勤勉に、そして、幸せに暮らすことのできる力強いドイツ帝国を取り戻すことが、総統としての自分の役目である。そのために全力を尽くそうと心に誓う。

 だからこそ、テレビのショーで、あるいは、『総統大本営』と名付けたホームページで、国民教育に専念する。それがコメディーだと思っている現代人をどんどんと惹きつけていく。そして、何より読者が、その空想の世界に引き込まれていく。

当時のドイツは今のドイツとどこが違うのか

 この本は危険だ。ヒトラーがあまりにも等身大の身近な人間として描かれ過ぎている。たとえば彼の秘書は、黒い服をまとった、一見プチ右翼っぽい、 でも、実は生真面目な女の子なのだが、彼女とヒトラーの関わりがとても心のこもったものとして描かれる。彼女のちょっとだらしのないベルリン方言が、人の よさそうな雰囲気を醸し出していて微笑ましい。そして、ここでのヒトラーは、気骨のある、しかし人情味に溢れたおじさんのようだ。

 それだけではない。ここに登場するすべての人間に対して、ヒトラーは強くて優しい。頑固で、公正で、私利私欲のない誠実な人間。絶対に妥協はしな いが、皆に分け隔てなく温かい愛情を注ぐ憂国の人だ。そして、読み進むうちに、本物のヒトラーが、この架空のヒトラーと重なっていく。

(3)

 ドイツでのヒトラーの評価は人非人、ほとんど絶対悪と言ってもよい。そのような極悪人がドイツ国を掌握し、全国民を一時的とはいえ熱狂させ得たの はなぜか。それは、当時の不況と社会不安と、ヒトラーの天才的な犯罪性、そして、極めて巧みなプロパガンダが、巧妙に組み合わさったからだとされている。 しかし、答えは本当にそれだけなのだろうか。それだけで、あの無類の規模のホロコーストが起こったのだろうか。

 ヒトラーのナチ政権が殺したのはユダヤ人だけではない。残虐な方法で殺された人々は他にもたくさんいる。共産党員、あるいは、ナチが共産党員だと 見なした人間だけでも、推定10万人が殺害されたというし、ナチに逆らったジャーナリスト、人権運動家、教会関係者、芸術家、ロマ(ジプシー)、同性愛 者、売春婦、乞食、そして、精神障害者も標的になった。

 私は数年前、拙著『ベルリン物語』(平凡社新書)の中で次のような疑問を呈した。

〈 この時代のことを調べていると、・・・ドイツ人のことがわからな くなるのである。・・・人間が、利益を追求することに熱心だということはわかる。・・・生活が豊かになる、あるいは、職を得ることができるなら、ついてい く人がいるだろうことも分かる。しかし、自分が得る利益の代償として、何が起こっていたかを、人々が知らないはずはなかった。

 ・・・絶滅収容所で起こっていたことを、一般のドイツ人が知ってい たか否かということは、よく話題になるが、その議論はここでは取り上げない。しかし、ユダヤ人が街中で殴り倒され、共産党員が殺害されていたことは、皆が 知っていた。そう考えていくと、やはり当時の状況が、よく呑み込めない。殴り殺した親衛隊の隊員が私の息子であっても、一向に不思議ではない状況だったの だろうか。殺人と、あそこまでの人権侵害が、取るに足らない周知の事実になってしまっていたのだろうか。

 ・・・これが紀元前の、あるいは、せめて中世の出来事だったとした なら、私もそれほど戸惑わなかったかもしれない。紀元前の人間、もしくは、中世という時代を生きた人間は、私たち現代人の常識では測れない思考と行動様式 を持っていたのだと考えるだろうから。ところが、ヒトラーの時代は、たかだか6、70年前のことである。

 その当時生きていたドイツ人の一部は、今もまだ生きており、その人 たちを見ている限り、彼らの思考や行動様式が、今のドイツ人や私のそれとさほど違っているとは思えない。しかも、ヒトラーが登場したその舞台は、ワイマー ル共和国という当時の世界では有数な民主主義国家であり、国民の教育程度は高く、豊かな文化があった。つまり基本線は、今のドイツとそれほど変わりはな い。だから、なぜ、あのようなことが起こりえたのかが、わからない。 〉

 

(4)

凶悪犯の主張に思わず賛同している自分

 著者ティムール・ヴェルメシュ(Timur Vermes)は同じ疑問を呈し、本の中で、それについての答えを模索した。彼は、南ドイツ新聞のインタビューにこう語っている。

 「多くの人間がヒトラーに協力した。なぜなら、彼のことを素晴らし いと思ったからだ。それほど多くの人間が協力する気になったということは、彼はそんなに恐ろしい男には見えなかったのだろう。国民は気の狂った男など選ば ない。魅力のある、あるいは、素晴らしいと思った人間を選ぶのだ。

 なぜ国民がヒトラーを崇拝したか、その理由を誰も説明できないとい うことは事実かもしれない。だからメディアはヒトラーを、恐怖政治で国民を支配した怪物か、あるいは、陰ではあざ笑われていた道化師に仕立て上げる。そし て我々は思っている。今の私たちは利口だから、怪物や道化師に付いていくことなど絶対にないと。

 だが、当時も、人々は今の我々と同じだけ利口だった。しかし、その彼らの目に、ヒトラーは優しく、知的で、チャーミングに映ったのだ」

 つまり、ヴェルメシュは、国民を引き付けた魅力的なヒトラーを描こうとする。怪物や道化師のヒトラーだけでは、第三帝国の暗黒部分は説明できない からだ。そこで彼はヒトラーに、第三帝国の犯罪の基盤になった危険な思想を再び大声で叫ばせる。ところが、皆はそれに気づかず、ジョークだと勘違いして、 拍手喝さいしている。絶妙な筋立てだ。

 この試みがあまりにもうまくいったのだろう、読者は知らないうちに、ヴェルメシュ創作のヒトラーに共感を覚え、彼と共に微笑み始める。次の瞬間、あの凶悪犯ヒトラーの主張に思わず賛同している自分に気づいてギョッとする。そして、深いジレンマに陥ってしまうのだ。

 この本は、ヒトラーを称賛するものでも、ヒトラーの罪を軽減しようとするものでもない。その反対で、ヒトラーが、いかにして人心を掌握していった かということを、「感じのよいヒトラー」を使って再現しようとしている。だから、「本当に拍手喝采する人間には、憲法擁護庁(民主主義を蝕む危険思想を監 視する役所)は目を付けるべきだ」と著者は忠告する。

 しかし、実際問題として、「感じのよいヒトラー」があまりにも生き生きしている。それは、ヒトラーの再評価にもつながりかねない。だからこの本は、やはり危険だと思う。日本でもそのうち訳されるだろうから、内容を詳しく語ることはしないが、興味深い本である。

 

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