「北の山・じろう」時事問題などの日記

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この国と原発:第3部・過小評価体質 安全審査、機能せず<毎日新聞>

毎日新聞
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この国と原発:第3部・過小評価体質 安全審査、機能せず
毎日新聞 2011年10月28日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c.html
▼全文転載

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 世界の地震の2割が集中する「地震大国」でありながら、54基もの商業用原発が建ち並ぶこの国。原発は 安全性に十分配慮して建設され、しかも国が厳重に審査しているとされてきたが、東京電力福島第1原発事故で「安全神話」は完全に地に落ちた。原発の安全審 査はどのように進められ、なぜ大地震の恐れがある地域でも建設が認められてきたのか。国の審査の仕組みや問題点をまとめた。

 ◇候補地 立地審査前に決定

 ひとたび大事故を起こせば、取り返しのつかない深刻な被害を招くのに、福島第1原発が建設されたのは 10メートルを超える巨大津波が襲う場所だった。中部電力浜岡原発は、マグニチュード(M)8クラスの東海地震の想定震源域の真上にある。四国電力伊方原 発の近くにも、M8クラスの巨大地震が懸念される中央構造線の断層帯が走る。原発はなぜ、大地震や津波など危険な災害に見舞われるような場所に建設されて きたのか。

 国の原子炉立地審査指針は立地条件として、「大きな事故の誘因となるような(地震や津波などの)事象が 過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと」と定める。日本に大地震の恐れがない場所などなく、素直に読めば 指針を満たす立地地点を探すことは困難を極めるはずだ。

(2)
 ところが、原発の建設候補地は、立地審査指針に基づく審査より前に決まる仕組みになっている。既存原発の場合、電力会社が候補地に挙げ、地元が建設に同 意すると、国の電源開発調整審議会で審議。了承されれば国の電源開発基本計画に盛り込まれ、国策として建設が進められてきた。

 立地審査指針に基づく審査が行われるのはその後で、建設決定が覆された例はない。運転開始後に活断層が想定以上の長さだったことが判明するなど、自然災害に関する新事実が分かった場合でも、運転が中止された例はない。

 海外では、米国カリフォルニア州のフンボルトベイ原発のように、直下に活断層が見つかって運転が中止された原発がある。

 地震学が専門の石橋克彦・神戸大名誉教授は「プレートテクトニクスなど、地震の基本すらきちんと分かっ ていなかった時代から原発を建設してきた。大地震が起こる危険性があるような場所には造ってはいけないはずだ。立地審査指針が形骸化していると言われても 仕方がない」と批判する。

 ◇過酷事故対策 義務化遅れ
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 原発は事故の危険性を最小限に抑えるため、「多重防護」の考え方で設計している、とされてきた。十分に 余裕を持たせた設計で事故につながる異常の発生を防ぎ、万一発生しても「止める」「冷やす」「閉じ込める」ことで、放射性物質の放出による被害を防ぐとの 考え方だ。国は安全審査で、この考え方に沿って原発が設計されているかを確認してきたはずなのに、なぜ事故を防げなかったのか。

 安全審査は国が示した約70種類の指針類に基づいて実施される。指針は主に(1)立地(2)設計(3) 安全評価(4)線量目標値−−に分類され、特に(2)に含まれる「安全設計審査指針」が原発施設の基本設計についてまとめており、安全審査の中核を担う。 同指針は、原子炉圧力容器や格納容器、燃料を冷やす冷却系などで守るべき基準を59項目にわたって示している。国の審査で指針を満たしていると判断されれ ば、安全性は確保されているとして、基本設計が許可される。

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 だが、同指針は77年に決定されて以降、3回の小規模な改定が行われただけで、ほとんど見直されてこな かった。例えば、同指針は短時間の電源喪失対策しか要求しておらず、長期間の電源喪失は考慮する必要がないとしていた。原発停止後については、「崩壊熱」 を出し続ける核燃料を冷却することが重要で、指針は外部電源が失われても冷却機能が働くよう求めている。だが、福島第1原発では津波で冷却用の海水を取り 入れるポンプが壊れ、十分な冷却ができない状態に陥った。

 では、福島第1原発事故のように、メルトダウン(炉心溶融)などのシビアアクシデント(過酷事故)が発 生した場合、その拡大を防ぐ手立てはどうだったのか。79年の米スリーマイル島原発事故や86年の旧ソ連チェルノブイリ事故を受け、過酷事故対策が世界各 国で進んだ。日本でも原子力安全委が92年5月、シビアアクシデントの拡大防止や影響を緩和する対策を定めたアクシデントマネジメントの整備を勧告。国は 同年7月、電力各社に整備を要請した。だが国は、現行の安全対策で原発の安全性は十分確保できるとして、整備を電力会社に義務づけず、自主努力で行うよう 求めるにとどめた。

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 これを受け電力会社は(1)原子炉の停止機能(2)原子炉圧力容器や格納容器への注水機能(3)格納容 器からの除熱機能(4)電源供給機能−−の強化に取り組んだ。例えば、原子炉圧力容器に注水する機能が全て失われても、消防ポンプで炉心に注水できるよう にした。同じ原発敷地内に複数の号機がある場合は、電力を融通できるよう配線をつなぐなどした。しかし、福島第1原発事故の被害拡大を防ぐことはできな かった。原子力安全委は事故を受け、ようやくアクシデントマネジメントの義務化を決定。指針改定の検討を始めた。

 ◇地震想定 見直し進まず

 各地の原発では東日本大震災が起きる前から、「想定外」の揺れを記録する地震が相次いでいた。電力会社は「重要な機器に影響はない」と釈明する一方で、そのつど想定を引き上げるなど後手後手の対応に終始し、経済産業省原子力安全・保安院も追認してきた。

 女川原発では05年8月に宮城県沖で発生したM7・2の地震で、原発直下の岩盤の揺れの強さが「設計用限界地震動」を上回った。設計用限界地震は旧耐震指針に基づいて設計時に想定する「およそ現実的でない」とされる大地震で、限界地震動を超えた初めての事例だった。

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 耐震指針改定後の07年3月に発生した能登半島地震(M6・9)では、志賀原発2号機でも揺れが限界地 震動の2倍近くに達した。その約4カ月後に発生した新潟県中越沖地震でも、柏崎刈羽原発の7基全てで、旧耐震指針下で想定した限界地震動を超えた。直下の 岩盤では最大1699ガル(ガルは加速度)に達し、想定の約3・8倍となった。

 そして東日本大震災では、事故を起こした福島第1原発のほか、女川原発と東海第2原発で、新指針に基づ いて想定した最大の揺れを初めて上回る事態となった。女川原発では3月11日の本震(M9・0)だけでなく、宮城県沖を震源とする4月の余震(M7・1) でも揺れが想定を超えた。今や新指針すら妥当性が揺らいでいるが、地震の想定手法の見直しについての具体的議論は始まっていない。

 ◇耐震 大半は新指針未対応

 原発の耐震性は、原子力安全委員会の耐震設計審査指針(耐震指針)に基づいて審査される。耐震指針は 06年に改定されたが、既存の商業用原発54基の多くは78年制定の旧耐震指針下で建設が認められており、福島第1原発のように耐震指針のない時代に認可 された原発もある。このため経済産業省原子力安全・保安院は電力各社に対し、既存全原発に新指針に基づく安全性再評価(耐震バックチェック)を指示し、現 在も継続中だ。

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 新指針は耐震設計で考慮すべき活断層について、従来は過去5万年間に活動した断層としていたのを、過去 12万〜13万年間に活動した断層まで広げた。新たに古文書や地下構造の再調査が必要になったことに加え、地形の特徴から隠れた活断層を推定する「変動地 形学」の手法を取り入れることも求めた。

 さらに、それらの方法で特定した活断層が動くと地震波がどう伝わり、原発でどんな揺れになるかをコンピューターで再現。原子炉格納容器など機器が壊れないかや、原子炉を安全に止められるかなどを確認する。

 また、活断層を見つけ損ねた場合に備え、従来はマグニチュード(M)6・5の地震が原発直下で発生して も耐えられる設計を求めていたが、新指針ではM6・8程度に引き上げた。ただ、08年の岩手・宮城内陸地震(M7・2)などは活断層が事前に確認されてい ない場所で起きており、「新指針でも想定が過小だ」との指摘も出ている。

 指針改定を受け、電力各社は各原発で想定する揺れの大きさを軒並み引き上げた。周辺の活断層の長さにつ いても、従来より長く見直す例が相次いだ。浜岡原発では大規模な耐震補強が必要となり、中部電力はコストが大幅に増加する可能性が高まったことなどを理由 に、1、2号機の廃炉を決めた。

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 ただ、耐震バックチェックは遅れている。電力各社が保安院に提出した評価結果は、地震学や工学の専門家を集めた作業部会の意見を参考に審査。指針改定から5年たつのに、保安院による最終評価が終わったのは柏崎刈羽原発1号機と5〜7号機の計4基のみだ。

 保安院の深野弘行院長は「(審査に)時間がかかりすぎという面で反省している」と保安院の責任を認め、福島第1原発事故以来止まっているバックチェックの審査を早期に再開する考えを示している。

 また、福島の事故後に「ストレステスト」と呼ばれる新たな安全評価が再稼働の条件として加わった。想定 を超えた地震の揺れで機器類はどうなるか、どこまで余裕があり、どの程度の揺れで壊れて深刻な事故に至るのかなどをコンピューター上で検証する。だが、再 稼働に必要な結果の基準はいまだ示されていない。

 ◇立地申請から運転まで20年

 原発の建設から運転開始までの手続きは、原子炉等規制法、環境影響評価法、電気事業法などに基づいて進 められる。地元との話し合いを経て原発の建設候補地を選んだ電力事業者にはまず、環境アセスメント実施が義務づけられている。事業者は原発建設が大気、土 壌、水質など環境に与える影響を調べ、容認できるレベルかどうかを予測・評価。まとまった評価は、経済産業相が住民らの声を聴く公開ヒアリングなどを参考 に審査する。

(9)

 評価結果が妥当と判断されれば、事業者は経産省資源エネルギー庁に対し、建設候補地を「重要電源開発地点」に指定するよう申請する。認められると正式に原発建設用地に決まり、建設準備が始まる。

 続いて事業者は、経産相に原子炉設置許可申請を提出する。国は安全審査に入り、耐震性、炉心や燃料の設計、立地条件などが安全確保の条件を満たすかをチェックする。

 これらの審査は経産省原子力安全・保安院が担当し、原子力委員会と原子力安全委のダブルチェックを受ける。原子力安全委は公開ヒアリングも開く。安全性が確認されると、文部科学相の同意を得て経産相が原子炉設置許可を出す。

 その後、事業者が提出する発電所の詳細な工事計画を経産相が認可すると着工。完工後の使用前検査に合格すれば、営業運転が始まる。原発の新規立地に要する年数は長期化しており、80年代以降は立地申し入れから運転開始まで20年近くかかっているのが現状だ。

 この特集は、永山悦子、河内敏康、八田浩輔、岡田英が担当しました。(グラフィック松本隆之、編集・レイアウト鎌田将伴)

(毎日新聞・連載特集)
この国と原発 アーカイブ(2011年)
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