社説:原子力規制委発足 事業者の虜になるな<毎日新聞
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社説:原子力規制委発足 事業者の虜になるな
毎日新聞 2012年09月19日 02時31分
http://mainichi.jp/opinion/news/20120919k0000m070135000c.html
◆全文引用
原発の新たな安全規制を担う原子力規制委員会と、事務局として規制委を支える原子力規制庁が19日に発足する。原発で緊急事態が起きた際には、規制委が原子炉への注水など専門的な対策を判断し、首相もそれを覆すことができないなど規制委は極めて強い権限を持つ。それだけに、原発関連業界や学界、政治からの不当な圧力を排除した「原子力安全の番人」として、国民の健康と安全を守る原子力規制行政の実現に全力を尽くしてほしい。
原子力規制委は委員長と委員4人の計5人で、国家行政組織法第3条に基づき設置される。環境省の外局だが、予算や人事を自ら管理するなど独立性が高い。規制庁は約500人体制で、内閣府原子力安全委員会や経済産業省原子力安全・保安院などの旧組織を解体して一元化した。規制委員長には田中俊一・前原子力委員会委員長代理、規制庁長官には池田克彦前警視総監が就任する。
東京電力福島第1原発事故では、官邸に正確な情報を提供し、適切な助言をするはずの原子力安全委や保安院がまったくと言っていいほど役に立たなかった。重大事故は発生しないと高をくくり、緊急時の指揮命令系統や広域避難体制の整備ができていなかったからだ。
国会の事故調査委員会は、規制当局が専門性で東電に劣り、「規制する立場とされる立場に逆転関係」が起きて事業者の「虜(とりこ)」になっていたと指摘したが、その轍(てつ)を踏んではならない。規制庁の職員の多くは保安院などからの横滑り組が占めるが、虜とならないための専門性の向上策や意識改革が欠かせない。
原発事故は起きることを前提とした防災体制の構築も急務だ。安全委は今年3月、重点的な防災対策を求める区域を原発の8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大した防災指針の改定案をまとめたが、規制委の発足遅れで最終決定は持ち越され、立地自治体の防災計画見直しも止まったままだ。池田氏には、警察官僚としての経験を生かした対応を期待したい。
政府は2030年代に原発ゼロを目指す新戦略を決定する一方、安全性が確認された原発は「その過程で重要電源として活用する」とした。規制委は今後、原発の再稼働に関する安全基準の法制化や40年廃炉ルール、原発の活断層リスクの再評価などにも取り組むが、国民の信頼を得ることが「活用」の大前提となる。
そのためにも、規制委人事の国会同意を改めて求めたい。政府は与党からも造反が出ることを嫌い、特例規定に基づき首相権限で委員を任命したが、規制委の発足の経緯やその強大な権限に照らせば、国会同意は不可欠である。