焦点/悩める被災マンション(上)/(下)異なる所有目的・被害程度<証言/焦点 3.11 大震災
証言/焦点 3.11 大震災「河北新報・連載記事」から全文転載
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焦点/悩める被災マンション(上)/異なる所有目的・被害程度
2011年08月06日土曜日
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110806_01.htm
▼全文転載
解体が決まった「サニーハイツ高砂」。建物が傾き、二つの棟の間隔が上に行くほど広がっている=仙台市宮城野区福室
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110806_01.htm
東日本大震災で被災したマンションで、さまざまな課題が生じている。解体や修繕に向けた手続きの高いハードル、被災認定への不公平感など管理組合や住民が抱える悩みは深い。被災者や専門家からは、マンションに関わる制度の見直しを求める声が出ている。
◎解体・修繕「合意」が壁/制度見直し求める声
マンションの解体や修繕で壁になっているのが「所有者の同意」だ。
区分所有法上、建て替えは所有者の5分の4以上の賛成で成立するが、解体に関する同法の規定はなく、所有者全員の同意が必要となる。所有者によって居住や投資などマンションを持つ目的も異なり、共通認識を醸成しにくい側面もある。
宮城野区のマンション「サニーハイツ高砂」(14階、189戸)は1カ月半という短期間で所有者全員が合意形成し、市への解体申請に至った。「全国的にも極めて珍しい」(不動産関係者)ほどの迅速な手続きで、例外的なケースといえる。
通常の修繕とは異なる「被災」の特殊性も、合意形成を難しくしている。
マンション関連の団体や行政機関で構成する「マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎ」事務局(仙台市)などによると、外壁や設備の経年変化に伴 う修繕は所有者の理解を得られやすいが、災害の場合は部屋の階数や位置によって被害程度が違うため、意思統一を図るのが難しいという。
同事務局は「余震が収まらない中、『せっかく直しても、また壊れてしまう』との不安感から、修繕などに踏み出せずにいるケースもある」と説明する。
大規模半壊と判定された若林区の10階建てマンションでは、被害が1~3階に集中。管理組合は所有者の多数決で可能な修繕を検討している。
理事長の男性は「合意形成は一筋縄ではいかないだろう」とみる。「専有部分まで工事作業となれば、プライバシーが害されると考える人も出てくる。細かな部分で、さまざまな意見や考え方が折り合えるか分からない」と話す。
全員の同意が必要な「解体」の場合、さらに困難さは増す。日本マンション学会は6月、倒壊の危険があるなどの非常時は全員の同意がなくとも多数決で区分所有を解消し、解体できる制度の創設を緊急提言した。
7月初旬にサニーハイツ高砂などを視察した同学会東日本大震災特別研究委員長の折田泰宏弁護士(京都弁護士会)は「現行制度では全員同意がない限り倒壊の危険が継続し、隣接住民の不安も招く」と指摘する。
阪神・淡路大震災(1995年)で被災した兵庫県内のマンション約2500棟を対象に、不動産調査会社「東京カンテイ」(東京)が99年に実施した調査によると、4年半足らずの間に115棟で建て替えが決まり、その大半はもともとの建物が解体された。
宮城県内の分譲マンション約1400棟の9割以上は仙台市内に集中している。市には解体に関する照会が10件ほど寄せられているほか、2棟で解体へ向けた話し合いが進む。住民が望むように解体や建て替えが実現するかどうかが課題となる。
◎全所有者同意、解体へ/「二次災害防ぐ」優先/公費投入の制度も追い風
東日本大震災で被災した仙台市宮城野区のマンション「サニーハイツ高砂」(14階、189戸)の管理組合(7月31日解散)は、震災からわずか1カ月半で 解体に向けた全所有者の同意を取り付けた。「二次災害を防ぐことが優先」という住民の意思が、迅速な決断につながった。
サニーハイツは柱に亀裂が走り、崩れた外壁から鉄筋がむき出しになっている。L字型に並ぶ2棟を少し離れた場所から見ると、両棟の間隔が上層階に向かうほど広がっている。紛れもなく建物は傾いている。
震災後、約400人の住民は1階の集会所や、近くの小学校などで避難生活を送った。「ついのすみかと考えていた人も多いが、自然の力には勝てなかった」。管理組合理事長だった伊藤宗昭さん(66)は残念がる。
建物は1976年の完成で築35年。78年の宮城県沖地震で基礎部分を支えるくいの一部に損傷を受け、補修した。
今回の震災で、市の応急危険度判定は当初、「要注意」だった。度重なる余震で4月4日に「危険」に繰り上がり、損保会社の地震保険の鑑定も「半損」から「全損」となった。
入居者有志13人が3月末、地震災害対策委員会を設立し、管理組合役員と協議を始めた。組合は地震学の専門家から助言を受け、状況把握に努めた。
建て替えか、解体か、修繕か。管理組合は4月29日、方向性を決めるための臨時総会を開き、三つの試算を提示した。
(1)建て替え費用は約30億7000万円、1戸当たり約1600万円の負担で、調査から工事完了まで3年かかる(2)解体は約2億5000万~3億円 で、工期は8~9カ月となる(3)修繕には地盤改良も必要で費用の見当がつかない―。1時間ほどの協議を経て、採決の結果、全員が解体に手を挙げた。
建物の解体・撤去を公費で賄う制度が5月中旬にできたことも、結果的に追い風になった。組合は同意書を集め、6月下旬に市に関係書類を提出した。
伊藤さんは「所有者それぞれに思いがあり、全員同意は難しいと考えていた。協力を得られたことに感謝する」と話す。
災害対策委の事務局を務めた志賀勇次さん(57)は「話し合いを重ねるうち、二次災害を防ぐのが先決という共通認識ができた」と振り返る。
現時点では秋に解体に着手する予定で、来春には更地になる見通しだ。仮設住宅などに移り住んだ住民の中には再建を模索する動きもあるが、約3500平方メートルの土地の活用策は決まっていないという。
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焦点/悩める被災マンション(下)/補償判定で不公平感 河北新報
2011年08月07日日曜日
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110808_02.htm
▼全文転載
住居棟と分離してしまった階段棟=7月下旬、仙台市宮城野区の鶴ケ谷プラザビル
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110808_02.htm
図
http://www.kahoku.co.jp/img/news/201108/20110807_syouten1.jpg
東日本大震災で被災したマンションなどの集合住宅で、被災認定が1棟全体の判定か、部屋ごとの戸別判定か―で、被災者間に不公平感が生じている。原則に 沿って1棟を一括判定した場合、「全壊」とされても居住でき、多額の義援金を得るケースもあるからだ。不満の声の一方、「被災者の幅広い救済につながる」 と一括判定に変更した自治体もある。
◎自治体間でばらつき/1棟一括か、部屋ごとか
集合住宅では、階や部屋ごとに差があっても原則1棟全体で被害判定する。仙台市は「迅速判定のため、被害が最も大きい階のみを調べ、全体の損害割合として差し支えないという国の指針に沿っている」(資産税課)と説明する。
仙台市宮城野区にある4階建て賃貸マンションは5月、市から「全壊」と認定された。1、2階は構造壁に亀裂が入り、ドアもゆがみ、多くが転居した。3、4階の被害は軽微だったが、棟全体が全壊扱いのため、そのまま住み続ける人も全壊分の補償を受けられる。
<全壊で200万円>
罹災(りさい)証明書に基づき、支給される宮城県の災害義援金は(1)全壊100万円(2)大規模半壊75万円(3)半壊50万円。さらに被災者生活再建 支援制度により、基礎支援金が全壊で100万円、大規模半壊で50万円が加わる。建て替えや住み替えをした場合は加算支援金も配分される=表=。
このマンションの関係者は「さほど被害がない階に住んで200万円ももらえる。引っ越せば50万円支給され、転居先が仮設扱いになれば、家賃負担も2年間要らない。支援策とはいえ、納得いかない」と語る。
同じマンションなのに、階によって被害認定が違う自治体もある。
石巻市の自営業女性(63)が住む分譲マンションは、1階が津波被害を受け全壊となったが、3階の女性宅は「損害なし」の判定。「エレベーターは1カ月以上使えなかったし、駐車場も地盤沈下した。被災した点では1階も3階も同じなのに…」と不満を募らせる。
国の指針には「住戸間で被害程度が明らかに異なる場合は1戸ごとに判定することも必要」というただし書きがある。石巻市は「津波で被災した場合は、浸水した住戸が明確だ」(税務課)と、ただし書きに沿った形で個別判定している。
津波被害を受けた2階建て以上の集合住宅について、認定方針を見直したのは東松島市。今月1日から、それまでの住戸別を棟全体の判定に切り替えた。
同市は「上部階に浸水はなくても、建物本体にダメージはある。解体で退去を求められる入居者が出ていることも、考慮した」(震災復旧対策室)と、対象約900世帯に罹災証明書の再交付手続きを取るよう呼び掛ける。
<二重ローンも>
義援金や被災者生活再建支援制度は、一戸建てや集合住宅の住人が対象で、所有者側は対象にならない。
前記の宮城野区のマンションオーナー男性(58)には、地震保険で2500万円下りたが、修繕に4750万円掛かる見通し。建築費との二重ローンを覚悟する。
同区の別のオーナー女性(63)は先月、所有する2棟が半壊とされ、約80世帯に周知した。「修繕するこちらは一銭ももらえない。地震保険にも入ってなかったので、固定資産税の減免措置ぐらいしか期待できない」と頭を抱える。
◎共用部分、救済に遅れ/応急修理制度、制約多く住民不満
東日本大震災で損壊したマンションで、廊下や階段など共用部分の修繕に対する支援が遅れている。一戸建てやマンションの専有部分に限っていた住宅の応急修 理制度は共用部分にも拡大して適用されることになったが、対象となる箇所や申請できる入居者が限られるなど制約は多い。修理に着手できないマンションの住 民は改善を求めている。
仙台市宮城野区のマンション「鶴ケ谷プラザビル」(5階建て、店舗含め76戸)は給水槽が壊れたほか、階段棟3棟が大きく傾き、2棟は住居棟と分離してしまった。倒壊の危険から、北側の市道は通行止めになった。
管理組合が業者に相談したところ、階段棟1棟の解体費は約500万円。積立金は1600万円あるが、建て直しの費用まで賄えない。
管理組合の芦沢勝彦理事長は「人命に関わる損害。早く解体し、建て直したい。行政に早急な支援を求めたい」と話す。
芦沢さんら仙台市内のマンション7棟の住民らは7月下旬、「被災マンション連絡会」を結成。8月2日、市に対し応急修理制度の早急な手続き開始を求める要望書を提出した。
しかし、連絡会は「あまりに制度上の制約が多い」と、市が示した対応策に不満を漏らす。
市は、階段やエレベーターの修理について、1カ所でも使用可能ならば制度の対象としない。全て使用できない場合は、1カ所だけを制度の対象とする。さらに「1階の世帯は階段やエレベーターを利用しない」として申請者として認めない。
多くの入居者が申請し、制度の適用を受けることで、共用部分の修繕費を賄いたいと考える管理組合にとっては、確かに不十分な支援内容だ。
市の担当者は「日常生活に最低限必要な部分を直すのが制度の趣旨」と説明。市と協議した宮城県も「避難所から自宅に戻って生活できるための限定的な工事」と厳しい制約に理解を求める。
一方、応急修理制度を扱う厚生労働省は「1世帯52万円の範囲で収まる工事ならいい。工事箇所を限定する必要はないのではないか」と言い、市の見解とは食い違いをみせる。
既に工事を発注し、工事費を支払った場合も制度の対象にはならない。被災マンション連絡会は、より使いやすい制度にするように市に要望を続けていくという。
芦沢さんは「多くのマンション住民が苦労している。突破口となるように活動していきたい」と話している。
[住 宅の応急修理制度] 災害救助法に基づく制度。災害で住宅が損壊し、補修しなければ住み続けられない場合に適用される。国は6月、東日本大震災を受けてマ ンション共用部分にも適用範囲を拡大。上限は1世帯当たり52万円。仮に10世帯が申請すれば最大520万円の工事ができる。国が9割、都道府県が1割を 負担する。
証言/焦点 3.11 大震災{河北新報・連載記事}
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