「北の山・じろう」時事問題などの日記

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想定外の地震を想定せよ!! 原発周辺地域で発生しうる最大規模の地震を前提と・馬淵澄夫レポート<現代ビジネス>

<現代ビジネス>から全文引用
2012年04月20日(金) 馬淵 澄夫
馬淵澄夫レポート(1)〜(5)

想定外の地震を想定せよ!! 原発周辺地域で発生しうる最大規模の地震を前提とした新基準でなければ、新たな「安全神話」を作り出すだけだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32360
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32360?page=2
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32360?page=3
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32360?page=4
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32360?page=5

(1)
 先週、政府は大飯原発3,4号機について「二基が新たな安全基準を満たしていることを最終確認」したとしての再稼働を認める方針を決定した。前回、私は再稼働の是非に先立って、「新基準」の問題点を指摘規した。福島第一原発の事故原因特定がなされないまま、主たる原因を津波と「仮定」して行った緊急安全対策、外部電源対策、シビアアクシデント対策によって、安全だとする判断を「安易かつ無責任」だと厳しく指摘してきたものである。再稼働という個別事案を問うているのではなく、そもそも「安全」に対する政策決定のプロセスが不透明だと指摘したものである。

 しかし、世論並びにメディアは個別の再稼働の議論にどうしても流れてしまうと思われるが、あらためて私は、今回の福島第一原発事故において事故原因の特定を行い基準の見直しを考えていくうえでも何が問題の本質かを指摘しておきたい。

1.想定外の地震は、人為的に発生

 そもそも、福島第一原発の事故の第一原因は地震である。マグニチュード9.0レベルの地震発災によって引き起こされた事故であることは間違いない事実である。もちろん、その地震によって発生した津波が第二原因となることは十分考えられることではあるが、今回の事故を検証し安全基準の見直しを検討していくうえで、「地震」について第一に検証していかなければならないことは当然である。

 そこで、今回の東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震原発事故の関係を整理したい。

 近年、原発事故と関連する地震動については、新潟県中越沖地震東北地方太平洋沖地震がある。新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原発東北地方太平洋沖地震では福島第一原発に対して設計上の基準を超える地震動を計測している。柏崎刈羽原発については、保安院IAEAの当時の現地調査のコメントとして「設計を超える地震動が発生したことについて、設計上、常に安全裕度を織り込んでおくことにより、実際に発生したことに耐えられる設計をするものであり、まさにそれが柏崎の事例。」として発表している。一方、「今回の重要な教訓の一つは、地震が設計時の想定値よりもはるかに上回ったこと。最大発生可能地震を想定する必要がある。」とも表明している。

http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80220a12j.pdf

 つまり、わかりやすく言えば、「柏崎刈羽原発は設計を超える地震が来たけど原発は余裕度を見込んでいるから大丈夫だった。でも、想定をはるかに上回る地震が来たということは最大発生可能な地震を想定しないとダメだね」と言うことだ。

 そして、福島でも、それは起きたのである。

(2)
 更に、余裕度があるから大丈夫かどうかの確認は、いまだ近づくことができない原子炉の状況を考えると、まったくできていないということである。

 そもそも想定している地震動を超える地震が複数発生していること自体、大きな問題であり、このことは、自然界において偶然に生じたことではなく、設計上の地震動の策定方法そのものに問題があるという人為的な問題ととらえるべきなのだ。にもかかわらず、このことを「想定外」の一言で片付けている。これでは、同じ事象が再び生じる可能性がある。

2.リスクが多い設計基準

 原子力発電所の耐震設計に関する技術指針は、原子力安全委員会が決定した「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(H18.9.19)により規定されているほか、耐震設計に用いる地震動の策定は、(社)日本電気協会の原子力規格委員会が策定した民間基準である「原子力発電所耐震設計技術指針基準地震動策定・地質調査編」に基づいて行っている。

 この指針では、耐震設計に用いる地震動の策定に関して、想定する地震について、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」に区分する考え方を基本的に採用している。

 「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、下記の3つの地震を検討用地震とし、距離減衰(震源地から離れれば離れるほど震度が減る)を行うことなどにより、敷地における地震動を策定することになる。

 ①内陸地殻内地震:敷地周辺の活断層の位置や長さより、震源と地震規模を設定

 ②プレート間地震:敷地周辺で過去に発生した最大規模か、想定した断層面から設定

 ③海洋プレート内地震:海洋プレート内におけるメカニズムや規模及び発生位置に関する地域的な特徴を踏まえて設定

 これらの方法の問題点は、震源を特定しているため、実際の耐震設計に用いる地震動は、距離減衰などにより、発電所において小さく見込まれることにある。このため、実際に発生する地震の震源の位置が想定と異なることにより、重大な被害が生じるリスクを持っているのである。

 一方「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連づけることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録をもとに地震動を策定しており、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」に比べると小さくなる。

 このように、震源を特定して地震を区分し、地震動を策定する考え方は、「一般に、ある程度以上の規模の大きな地殻内の浅い地震が発生した際には、地表地震断層が出現する。同じ震源断層でこのような地震が繰り返すことによって、地表付近に地表地震断層の変異・変形が累積し、活断層として認識される。したがって、ある程度以上の規模の大きな地震であれば、活断層を調査することにより、将来発生する地震の位置や規模を想定することができる。」という仮定に基づくものであり、地震学においては「一般」とされている。

(3)
 しかし、そもそも本当にこの仮定は正しいのだろうか。

 20世紀以降、日本で起きたM6.8以上の規模の内陸地震は25回。そのうち、主要な活断層帯で発生した地震は6回。さらにそのうち、地表に断層が出現したものはわずかに4回に過ぎない。一方、まったく活断層がない地震は10回。これに加えて、新潟県中越沖地震など、事前の十分な地質調査が困難な、沿岸海域で発生したものは6回にも上っている。

 つまり、大地震が活断層帯で起きるケースの方がまれであるという地震の発生状況や、断層を含む地質の状況を完全に明確にすることは困難である沿岸部という立地条件を考慮すると、今の指針に基づく設計では、想定外の地震の発生するリスクが非常に高いのだ

3.リスクを認識している保安院

 政府は、再稼働の安全基準を策定するに当たり、様々な意見聴取会を開催して専門家の意見を反映させてきたと言っている。

 このうち、地震・津波に関しては、「地震・津波に関する意見聴取会」という会議が設置され、平成23年9月30日から平成24年3月28日まで15回開催されている。

http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/800/26/800_26_index.html

 東北地方太平洋沖地震を踏まえて、今後の地震動、津波に対する評価をどのように行うのを検討するとともに、個別の原発毎の地震・津波に対する評価の妥当性を検証しており、ここでの議論を参考として、平成24年2月16日「平成23年東北地方太平洋地震の知見を考慮した原子力発電所の地震・津波の評価中間とりまとめ」を保安院が公表した。

 意見聴取会第10回会議において、この中間とりまとめの素案に対する意見聴取が行われた。

 この時、保安院が配布した資料では、「今回の地震による知見を踏まえM7.0規模の地震動を考慮すべきとの意見も示されており、「震源を特定せず策定する地震動」についてはその策定に係わる考え方を整理する必要があると考える。」と記されている。

第10回配付資料10-4のP30中段
http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/800/26/010/10-4.pdf

 しかしながら、2月16日に保安院が公表した最終の中間とりまとめからは、素案にあったはずの「震源を特定せず策定する地震動」の課題に関する記述は削除された。

保安院公表資料P28〜30
http://www.meti.go.jp/press/2011/02/20120216003/20120216003-2.pdf

(4)
 この結果、問題点は、海溝及び活断層の連動性(これまでは5km以下だと連動扱い)だけに論点を絞っており、「震源を特定せず策定する地震動」に関する見直しは行われず、安全対策にも反映されないことになった。

 この議論の仮定からも明らかなように、保安院は、リスクを認識していても、安全対策、基準に反映しない姿勢であり、依然として、「人為的に発生する想定外の地震」の恐れがあるということになるのだ。

4.想定外の地震を想定せよ

 政府が決定した4大臣による再稼働に当たっての基準において、地震及び高経年化による影響は、外部からの受電系統における電気設備の損傷等による外部電源喪失しか認めていない。

 それ以外の地震による影響はどうしたのか、例えば、地震動によって原子炉プラント自体が損傷を受けたのではないかという懸念に関しては、

・被害が未だ確認できていない。
・データや分析の範囲で知見が得られない。
・シミュレーションの結果、基準値を満たしている。

 など、リスクが想定されているにもかかわらず、根拠にもならない理屈だけでそのリスクを排除している。

 これこそが、様々なリスクが想定され、指摘されていたにも関わらず、基準上では想定してこなかった姿勢そのものであり、「安全神話」の元凶なのだ。

 本来、安全を増すために用いるべき科学や工学の知見を、リスクを増大させる根拠として用いるべきではない。

 今回の、再稼働に向けた「新基準」は、また幻影に過ぎない新たな「安全神話」を作り出そうとしているのではないだろうか。

 想定外の地震が発生し、想定を超える地震動を受け、想定を超える津波の襲来を受けた、という事実に目を背けることなく、政府は、国民の信頼を回復するため、何よりもまず、最初に想定外の地震を想定する努力を行うべきなのだ。

(5)
 具体的には、内陸地殻内地震及びプレート間地震に関しては、地域で起こりうる最大規模の地震を把握し、その地震が原子力発電所の直下で発生するケースを基準地震動として採用すべきであり、設計上の地震動に関して、下記のような見直しが必要である。

 ①震源を特定する考え方をやめて、震源は直下型を前提とすること。

 ②周辺の活断層などの調査、過去の地震に関する調査、地震発生メカニズムなどから、その地域で発生しうる最大の地震規模を設定すること。

 ③具体的な地震動については、上記①②を前提とした上で、シミュレーションや過去の地震動の観測記録を参考としつつ、耐震設計上最悪の条件になるものに設定すること。

 そして、指針類の見直し方針を明確にした上で、原発の再稼働に向けた安全性の確認を、第三者のチェックを受けつつ行うべきなのだ。

 私は、民主党政権がどうのとか、あるいはどの勢力が原発の今後を訴えて国政を担うとかを論じる気は一切ない。ただ、この災厄に対して、私たちは科学と技術の知見をもって、安全を、誰も実際に見たこともないただ語り継がれるだけの「神話」ではなく、「日々の暮らしの中にある具体的な営みの積み重ね」に変えていかなければならないと、強く訴えるものである。

★以上、<現代ビジネス>から全文引用