「北の山・じろう」時事問題などの日記

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公示価格の下げ幅縮小は朗報か!? 国交省の大本営発表と新聞各紙の提灯記事が見落とす実需不足と株式

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町田徹「ニュースの深層
公示価格の下げ幅縮小は朗報か!? 国交省の大本営発表と新聞各紙の提灯記事が見落とす実需不足と株式市場の"変調の兆し"
 2013年03月26日(火) 町田 徹
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▼全文転載



(1)

 国土交通省が先週21日に公表した地価調査で、前年より公示地価の下げ幅が縮小したことを受けて、アベノミクスが早くも効果をあげているかのように伝える提灯記事が溢れている。

 一例をあげると、「大都市地価、上向く 緩和マネー流入」(朝日新聞)、「脱デフレ 地価で先行」(日本経済新聞)といった具合だ。

 だが、こうした報道は、"大本営発表"を誇張するものに過ぎず、はしゃぎ過ぎの感が拭えない。

 新聞に期待される役割は、こんな報道ではない。国土交通省の言う地価底入れが本物かどうかきちんと検証したうえで、下げ止まりを一過性のものにせず、アベノミクスを成功させるために必要な政策課題を明らかにする姿勢が求められるのである。

珍しく明るい話題を報じた22日の新聞各紙

 先週もマスメディアでは、福島第一原発事故の冷却トラブルやTPP(環太平洋経済連携協定)交渉を巡る百家争鳴を伝える記事が目立ち、うんざりし た人もいるだろう。そうした中で、地価に下げ止まりの兆しが出てきたとか、地価が日本一高い場所、あるいは東日本大震災の被災地の地価上昇を伝えた22日 の新聞各紙の記事が珍しく明るい話題だったと記憶している向きが多いのではないだろうか。

 そう、東京都中央区銀座4丁目の「山野楽器銀座本店」と千代田区丸の内2丁目の「丸の内ビルディング」がそろって1㎡当たり2,700万円と2年 連続地価日本一の座を仲良く分けあったとか、宮城県が住宅地の地価上昇率で初めて全国トップになったことを伝えた一連の記事である。

(2)

 かつての土地神話が一変、長年低迷を続ける経済の象徴の一つになってしまった地価の下落が今度こそ終わりを告げて、本格的な上昇に転じるのならば、それを多くの人が朗報と捉えるのはある意味で自然なことだろう。

 しかし、それらの記事は信頼に足るだろうか。実際に、国土交通省の「平成25年度地価公示」の変動率(全国平均)をみてみると、全国の地価は前年比でマイナス1.8%。そこから言えることは、平成21年以来、今回で実に5年連続の下落となったということに過ぎない。 

 用途別地価の動きを見ても、住宅地がマイナス1.6%、宅地見込地がマイナス3.4%、商業地がマイナス2.1%、工業地がマイナス2.2%と四分野すべてで下落が続いている。

 逆に、プラスになったのは、都道府県別に住宅地、宅地見込み地、商業地、工業地の4つのカテゴリーをみて、宮城県の住宅地(プラス1.4%)、宅 地見込地(プラス2.7%)、工業地(プラス2.0%)、神奈川県の商業地(プラス0.2%)、愛知県の住宅地(プラス0.1%)だけなのだ。全部で 184ヵ所あるうちのわずか5ヵ所でしか上昇がみられないのである。

国土交通省の我田引水の大本営発表

 ところが、この貧弱な実態を棚に上げて、国土交通省は、「平成25年度地価公示結果の概要」で、「平成24年1月以降の1年間の地価は、全国的に 依然として下落を示したが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も大幅に増加し、一部地域において回復傾向が見られる」と我田引水の見解を公表した。

 その根拠は「都道府県地価調査(7月1日時点の調査)との共通地点で半年毎の地価動向をみると、前半に比べ後半は下落率が縮小している」ということぐらいだ。国土交通省の姿勢には、戦時中の大本営発表を彷彿とさせるものがある。

 こうした見解は、年号が平成に変わってから、ある年に地価下落率が縮小しても、その翌年に下落幅が再び拡大して2番底を付けたケースが繰り返されていることを無視した一方的見解と言わざるを得ない。

 ちなみに、公示地価の下落率は、平成7年にマイナス3.0%に縮小した後、翌8年にマイナス4.0%に再拡大した。また、10年にマイナス 2.4%に縮小した後、翌11年に再びマイナス4.6%に急拡大した例もある。特に、10年のケースは18年まで下落が継続した深刻なケースとして記録さ れている。

 ここ2、3年を振り返ってみても、「地価底入れ」は、大手不動産会社の売りたい強気に過ぎず、掛け声倒れに終わり、実態を伴っていない。

 にもかかわらず、国土交通省の根拠乏しき我田引水の発表姿勢を冷静に論評すべき立場の新聞各紙が、国交省の見解を煽る形で報道したのだから、何をかいわんや、である。


(3)

 諸紙の中で最も目を覆いたくなるのが、冒頭で触れた朝日新聞の記事だ。同紙は22日付朝刊の1面トップで、前述の「大都市地価、上向く 緩和マネー流入」という大見出しを掲げただけでなく、本文でも、

 「国土交通省は21日、2013年1月1日時点の『公示地価』を発表した。全国では住宅地、商業地とも5年続けて前年より下がったが、東京(首都 圏)、大阪、名古屋の3大都市圏は08年秋のリーマン・ショックで落ち込んだ地価がほぼ下げ止まった。さらに安倍政権の経済政策『アベノミクス』による金 融緩和で余ったお金が不動産に流れ込み、大都市を中心に地価が上がり始めている」

 と、露骨に安倍政権に媚びる姿勢を見せた。

新聞自身の混乱を映す提灯記事

 いくらなんでも、昨年暮れ12月26日に発足したばかりの安倍政権の経済政策によっておカネが不動産市場に流れ込み、不動産取引が活発化、その実 績をもとに算出される1月1日付の公示価格が大都市で上向いた、などということはあり得ないだろう。たったの5日しかなかったのだから。

 あえてアベノミクスに触れるにしても、せめて読売新聞のように「安倍政権の経済政策『アベノミクス』で円高修正と株高が進み、今年1月以降、不動 産市場への資金流入が続いており、取引の活発化を通じて日本経済全体に弾みがつくと期待が高まっている」と、今後を左右する要因にとどめるべきだったので はないだろうか。

 朝日は「東京(首都圏)、大阪、名古屋の3大都市圏は08年秋のリーマン・ショックで落ち込んだ地価がほぼ下げ止まった」と報じているが、実際の 発表データを見ると、東京圏の住宅地は前年比マイナス0.7%、商業地は同マイナス0.5%、大阪圏はマイナス0.9%とマイナス0.5%、名古屋圏はプ ラスマイナス0%とマイナス0.3%だ。

 また、新聞自身の混乱を映しているとしか思えないのが、日本経済新聞が22日の朝刊3面で報じた「脱デフレ 地価で先行」という解説記事である。

 この記事は、「安倍晋三首相の経済政策、アベノミクスへの期待も投資マネーを不動産市場に呼び込む。主役は不動産投資信託REIT)だ。(中 略)今年に入ってからの物件取得額は21日発表分までで約8,500億円。昨年1年間の7,800億円を超え、約1兆円だった08年に迫る」と政府を持ち 上げる内容だ。

 ところが、後段で「ただ、投資マネー主導の地価底入れには関門も多い。REIT相場の上昇はオフィス賃料の反転期待が支えだが、賃料は都心でも小 幅下落が続く。実体経済が上向いて賃料が反転しなければ、REITの魅力は薄れ、不動産市場への資金の流入は細る可能性がある」と自己否定する体裁をとっ ているのである。


(4)

 そもそも、経済指標として、遅れて経済実態を反映する性格の強い「遅行指標」と位置付けられている「公示地価」や「地価」を、「脱デフレ」という 経済の先行きを反映したものとして読み解こうとした解説記事の目の付けどころに無理があると言わざるを得ない。むしろ、現在のような局面で注目するべき は、経済の代表的な先行指標である株式市場の動きだろう。

アベノミクスで大切なのは「第3の矢」

 株式市場では、昨年11月半ば以来、政権交代やアベノミクス期待を囃して、日経平均株価が急騰してきたが、ここへきて"変調の兆し"とも取れる動きが出ているからだ。

 その異変とは、日経平均株価が先週3月18日に前週末比340円32銭安と今年最大の下げ幅を、そのわずか3日後の22日には前日比297円16銭安と今年2番目の下げ幅を、それぞれ記録したことである。

 株式市場では、急騰と急落が繰り返されるような局面は、それまでの上昇相場の上げピッチが早過ぎて高値警戒感が強まってきたことの表れとみなされ ることが珍しくない。単に、上昇ピッチが早過ぎただけで一過性の乱高下で終わることもあれば、ずっと深刻で歴史的な上げ相場の終焉が迫っている時もある。

 このところ、不動産市場、特にREIT市場でも、株式市場の急騰を追うように投資が急拡大しただけに、いつ高値警戒感が台頭してきてもおかしくはない。

 というのは、首都圏のオフィス需要にみられるように、人口減少社会に直面して「実需がないという構造的なネックが一向に解消されていない」(不動 産開発業者)からだ。また、「消費税増税前の駆け込み需要が一段落すれば、マンション・住宅需要が冷え込んでも不思議はない」(同)と警鐘を鳴らす向きも ある。

 本コラムでは何度も指摘してきたが、アベノミクスで大切なのは、「3本の矢」の3本目、成長戦略(構造改革)だ。マネーを操る金融政策(1本目の 矢)や、痛み止めのばら撒きのような補正予算(2本目の矢)はその場しのぎで、力不足なのである。3本目の矢が無ければ、日本経済の立て直しは覚束ない。

 まだ地価が下がり続けているにもかかわらず、公示価格を下げ止まりの兆候と決め付ける国土交通省の世論操作と、十分な検証もないままに、その発表に提灯を付ける新聞記事によって、デフレの克服や経済の成長が実現する道理などないのである。

安倍政権がいまだに打ち出せない「第3の矢」の具体策を速やかに示さないと、株式市場の"変調の兆し"が本物になりかねないのである。

 

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