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原発の新規制基準 廃炉時代の始まりに【社説】
2013年7月9日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013070902000144.html
▼全文転載
新しい規制基準は、福島第一原発の重い教訓の上に立つ。
柱は二本。電力会社に過酷事故への対策を義務付けたこと、地震や津波に対する多重の備えを求めたことである。
3・11以前、原発の過酷事故対策は、法律上の義務ではなく、電力会社の自主的な努力に任されてきた。
◆免震棟がなかったら…
なぜか。この国では過酷事故など起きず、従って、義務など必要ない-。全国五十基の原発は、まさに“原子力ムラ”という神話の世界で増え続けていた。
新基準は、フィルター付きベントの設置を義務付けた。放射能を取り除くフィルターが付いた排気設備だ。福島の事故では、排気装置はあってもフィルターがなかったために実行がためらわれ、結局は大量の放射能を大気中に拡散させてしまった。
有事の司令塔になる緊急時対策所の設置も初めて盛り込んだ。
その経験から福島にも免震重要棟を整備した。東日本大震災のわずか八カ月前のことだった。
このほか、停電に備える電源車や移動式ポンプ車の配備、燃えにくい電気ケーブルを採用することなどが必要になった。
◆安全最優先という魂を
規制機関の放射線・原子力安全センター(STUK)は半世紀以上の歴史があり、国民から警察以上に信頼されているという。
世界一安全というよりは、これでようやく世界水準に並ぶことができたと考えるべきだろう。
だが、厳正な規制ほど不合格は出るものだ。正しく適用すれば、増設の坂を上り詰めた原発が、減少へ向かうということもできる。
基準が直ちに安全を保証するわけではない。大切なのは、その基準にどのような魂を入れるかだ。
電力会社が審査の効率化、迅速化を強く要求するのは、ある意味当然だ。しかし、そこで安全文化、安全最優先を貫く意思があってこそ、新基準の魂となるはずだ。
新基準がもたらすものを挙げれば、以下のようになる。
・過酷事故対策にしろ、津波や地震への備えにしろ、膨大な費用がかかる。
・費用は電気料金にはね返る。
・事故の補償は事業者だけで負いきれるものではない。
・安全最優先に徹すれば、政府の支援がない限り、経済的にも自然に淘汰(とうた)されていく。
安倍内閣は「規制基準に適合すると認められた原発の再稼働」を成長戦略に明記した。しかし、共同通信が五月半ばに実施した世論調査では、安全が確認された原発を再稼働することに「反対」と答えた人が54%を占めている。
規制委の判断は、もちろん科学に基づくべきだ。だが、再稼働の是非は、国民や地元の意見に十分耳を傾けながら進めるべきである。各地域にはそれぞれの事情がある。原発に代わる経済対策がないままに再稼働へ進むとすれば、住民の不安は募るばかりだろう。
放射能の被害は広く拡散するが、自治体には十分な退避計画もできていない。できるかどうかも分からない。
日本のエネルギー政策に最も必要なのは、未来の安全と安心だ。
◆次は再生可能エネルギー
新しい基準の施行を、神話時代から廃炉時代への転換点にすべきである。
その先には再生可能エネルギーの普及、そして進化という新しいゴールが待っている。
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