「北の山・じろう」時事問題などの日記

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依存度「3つのシナリオ」に騙されるな! 電力会社の経営危機ばかり強調し、"不都合な真実"を伏せる政府にエネルギー戦略は任せられない!町田徹「ニュースの深層」

「現代ビジネス」 から全文引用
http://gendai.ismedia.jp/
2012年07月17日(火) 町田 徹
町田徹「ニュースの深層
依存度「3つのシナリオ」に騙されるな! 電力会社の経営危機ばかり強調し、"不都合な真実"を伏せる政府にエネルギー戦略は任せられない!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33025
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 福島原発事故を受けた、エネルギー戦略の抜本見直し論議が大詰めを迎えた。

 とはいえ、政府が争点に掲げているのは、原発依存度の選択肢だけ。3つのうち、比較的賛同を得やすい「2030年に15%」という原発依存度に世論を落とし込んで、不都合な真実や厄介な問題は素通りしようという無責任な姿勢が透けて見える。

 その背景に、何よりも原発の早期再稼働を最優先しようという意図も垣間見える。

 しかし、それでは、福島原発事故の貴重な教訓はまったく活かされない。むしろ、大切なのは、まず、福島事故の処理(賠償、除染、廃炉)に必要な国 民負担の実態を明らかにしたうえで、新たな原発賠償保険の制度、安全対策、長年失敗を重ねてきた使用済み核燃料の処分策、国民負担の割に実効の上がらない 再生可能エネルギーの普及策、成長と両立できる地球温暖化対策などを早急にまとめることではないだろうか。

 これらの重要な前提を無視して、原発依存度を「2030年に15%」にする選択肢を選ぶことは、自動的に、「すべての原発に設計寿命の40年間の運転を認める」ことになりかねない危うさがある。

15%シナリオに込められた政府の意図

 原発依存度を巡る3つのシナリオは、国家戦略室の「エネルギー・環境会議」が6月29日付で公表した「エネルギー・環境に関する選択肢」に盛り込まれている。

 東日本大震災前(2010年)は全電源のうちの25%を占めていた原発の比率を、2030年に0%、15%、20〜25%のいずれかに引き下げるというものだ。

公表された文書には、原発依存度見直しの必要性を、「東日本大震災と東電福島原発事故が発生」し「原子力は安全であるという大前提が大きく揺ら」いだこと から、「原子力発電に依存したエネルギー選択を白紙から見直さなければならなくなった」となかなか説得力のある言葉が並んでいる。

 しかも、原子力委員会がまとめた「核燃料サイクル政策の選択肢について」、総合資源エネルギー調査会・基本問題小委員会がまとめた「エネルギー・環境に関する選択肢」、中央環境審議会・地球環境部会がまとめた「2013年以降の対策・施策に関する報告書(地球温暖化対策の選択肢の原案について)」などを勘案しただけでなく、「エネルギー・環境会議」自身の下部組織「電力需給に関する検討会合」や同じく「革新的エネルギー・環境戦略会議」などの審議内容と報告も包括したものということになっている。
(2)

「原子力の安全確保と将来リスクの低減」だけでなく、「エネルギー安全保障の強化」、「地球温暖化問題解決への貢献」、「コストの抑制、空洞化防止」といった4つの重要なポイントも踏まえて導き出した立派なものだというのである。

 しかし、政府が本音で、3つの選択肢を同等に扱っているとは思えない。というのは、原発をゼロにする選択肢と20〜25%の依存度を維持するとい う上下のシナリオは、いずれも2030年を待たずに、できるだけ早期に強引に目標を達成し、2030年以降は、その水準で原発比率を固定するという硬直的 なものとなっているからだ。

 原発ゼロシナリオは強硬な原発廃止論者でないと主張しづらいし、逆に原発20〜25%シナリオは強硬な原発存続論者でないと主張しづらい内容なのである。

 それら2つと異なり、15%シナリオは、言外に40年の設計寿命を迎えた段階で、既存の原発を廃炉にすることを前提にしたものだ。2030年以降 の原発の取扱いや、核燃料サイクルなど、関連政策の見直しについても2030年の状況に応じて弾力的に対応できる余地を残している。つまり、原発廃止論者 や強硬な原発推進論者も、2030年の政策変更に期待を残す余地のある選択肢なのだ。出来るだけ多くの人を、この選択肢に賛同させようという政府の意図は 露骨だ。

原発は安価」ではない

 筆者は、2030年の原発依存度15%という選択肢そのものが悪いと決め付ける気はない。
しかし、そこに盛り込まれた美辞麗句とは異なり、政府が不都合な真実を避けて通ろうとしていること、また、外せないコストを開示せず、その負担リスクの存在を国民に伏せたまま、国策を形成しようとしている問題を見過ごすわけにはいかない。

何より懸念されるのは、筆者が近著「東電国有化の罠」(筑摩書房)や本コラムでこれまでも繰り返し指摘してきたように、いまだに福島原発事故の処理(賠償、除染、廃炉)に伴う費用について、政府がその見積もりすら明らかにしていない点である。

 原発依存度の見直しなどとは関係なく、日本の電力コストは、福島原発事故の処理のために膨張して、電気料金を押し上げ続ける構造になってしまった。そのコストを詰めて、見直し策に織り込まない限り、適切な選択ができるワケがないのだ。

 ちなみに、賠償、除染、廃炉のコストはそれぞれ100兆円単位、100兆円単位、10兆円単位に膨らんでも不思議はない。ところが、東電の再建論 議でも、エネルギー戦略の見直しでも、政府は今なお、国民負担を増す不都合な真実の開示を嫌い、関連情報の公開を怠り続けている。

 加えて、原子炉1基当たりわずか1200億円しか賠償措置額を見込んでいない原子力損害賠償制度の見直しも、政府はろくな議論をしていない。本 来、このコストは、福島原発事故の処理費用の多寡や、原発の立地(周辺地区の人口や経済規模)に応じて、保険料が大きく変動する可能性のあるものだ。つま り、原発ごとに大きく異なってくるはずなのだ。東日本大震災前に罷り通っていた「原発は安価」という神話を根底から覆す可能性もある。

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 こうした点から見れば、野田佳彦政権が早期再稼働に拘った関西電力の大飯原子力発電所は、採算が合わず廃炉になる原発の第1号として最有力候補だったかもしれない。

 というのは、大飯原発の場合、防潮堤、免震事務棟、ベントのハッチなどの安全設備ができていないことや、いざという時の避難計画が出来ていないと あって、運転再開への反発が強かった。100km圏内に大津、京都、奈良、大阪、堺、神戸などの大都市住民に十分な補償ができる原発賠償保険への加入を義 務付けた途端、保険料が高過ぎてコスト倒れになっても何の不思議もないからだ。

経済成長の制約要因にもなりかねない

 話を戻すと、政府が提示した3つの選択肢には、増大する電力コストに歯止めをかける努力や、電力コストの上昇が経済成長の足を引っ張るという危機感が乏しい。

 例えば、鳩山由紀夫元首相や菅直人前首相がコンセンサスもないまま押し進めてしまった地球温暖化対策。これを、与党・民主党は、環境官僚と一体となって、今回の見直し論議の対象から外して“聖域化”している。

 というのは、政府は原発依存度でゼロから25%まで幅のある3つの案(当初は30%までの4つ)を示したのに対し、CO2削減に関しては、 2030年に1990年度比で23〜25%と現行の目標(鳩山元首相が2009年の国連演説で掲げた目標、2030年に1990年比で25%削減)を堅持 しようという姿勢が露骨なのだ。

 こうした背景には、排出権取引の買い手として日本に高めの目標を掲げさせようとする国際金融筋の圧力があるとされる。が、「(無謀なCO2削減 は)年1%程度しかないとされる潜在成長力を弱めるもので。経済成長の制約要因になりかねない」(民間エコノミスト)と懸念の声もあがっている。低迷が長 引く経済の足を引っ張り続けてよいとは思えない。

 そもそも、2008年から2012年のCO2の排出量を1990年比で6%削減するとした、京都議定書の削減目標の継続さえ、経済成長と両立するのは容易ではないはず。政府は、CO2についてもっと柔軟な選択肢を示すべきである。

 さらに、一連の選択肢が、2010年の実績が10%しかない再生可能エネルギーの比率を35%〜25%に引き上げることを前提にしていることも気 掛かり。新規参入事業者の言い値を上回る高値で買取価格が決まった太陽光、風力発電の振興策や、新たな普及に繋がらないのに継続・延長が決まった既設設備 を持つ再生可能エネルギー会社の支援、技術的な困難を克服できるかどうか不透明な洋上風力発電の福島沖での開発に付けた巨額の補正予算などが長期的に固定 化し、全体としての電力コストの押し上げに拍車をかける恐れがある。

(4)

 その一方で、電気料金の上昇に歯止めをかける低コスト電源の開発・振興という視点がすっぽりと抜け落ちているのも危うい点である。化石燃料を十把 一絡げにしてしまい、低コストで安定的な燃料確保が見込める石炭火力発電の振興を怠っている点や、再生可能エネルギーの中で天候に左右されず高い発電効率 が期待できる地熱発電の振興策が抜け落ちているのは怠慢と言わざるを得ないだろう。

 石炭火力発電は近年、燃焼温度をあげて燃焼効率を向上する技術や、ガス化して発電する技術、排出されたCO2を地下に埋設する技術など、飛躍的な進歩がみられる分野だ。

 また、地熱発電には、天候次第で発電効率が大きく左右される風力、太陽光発電と異なり、安定的で発電効率が高い特色がある。いずれも、7、8年の歳月がかかる環境アセス手続きを簡素化するなど、早急に電気料金上昇に歯止めをかける施策を確立させるべきだろう。

電力会社経営の危機は本当か

 最後に、国民や利用者の視点が依然として軽視されていることを指摘しておきたい。「エネルギー・環境会議」が5月にまとめた「需給検証委員会報告書」は、その代表例だ。

 「エネルギー・環境会議」が5月にまとめた「需給検証委員会報告書」は、その代表例だ。

 政府は、報告書に「燃料費の増加の見通し」と「原子力発電所が停止し続けた場合の電力9社の財務状況」という2つの表を載せて、昨年度、各地の原 発が運転を停止した結果、沖縄を除く全国の9電力会社合計の燃料費が2.3兆円も増えたことを強調。今年度以降も、この状態が改善されなければ、9社合計 の純資産が半分以下に激減する、と電力会社経営の危機を強調している。

 出典元の資源エネルギー庁は、2年もしないうちに、電力各社がそろって債務超過に陥り、破たんすると言わんばかりなのだ。しかし、これほどナンセンスな話はない。

 電力各社は、今年度から来年度にかけて、相次いで値上げを実施し、上昇したコストを企業と家計に転嫁する見通しで、自己資本の毀損などあり得ないからだ。

(5)

 むしろ、代替燃料費の増大は、電力会社よりも、コストを転嫁される家計や企業にとって深刻な問題なのでもある。加えて、貿易収支の大幅な悪化を招き、円相場や日本国債の安定消化にも影響を及ぼす問題だ。

 その影響の大きさは、大ひんしゅくを買った東電の大口向け料金引き下げと、審査が難航している家庭向け料金の値上げ騒動を見ても明らか。電力会社の経営問題として深刻さを喧伝する政府の姿勢は、利用者の視点を欠いている。

 福島原発事故に端を発したエネルギー危機の打開は、とても、今の政府に任せられる問題ではない。再考を促すパブリックコメントの締め切りまで、我々に残された時間はわずかである。