「北の山・じろう」時事問題などの日記

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この国と原発:第5部・立ちすくむ自治体 遅れる政府防災指針 地方の計画に支障

毎日新聞
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この国と原発:第5部・立ちすくむ自治体 遅れる政府防災指針 地方の計画に支障
毎日新聞 2012年04月23日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120423ddm010040023000c.html
▼全文転載


原発の防災対策が必要な範囲と人口分布 ※谷謙二・埼玉大准教授提供の地図・データを基に作製
http://mainichi.jp/graph/2012/04/23/20120423ddm010040023000c/001.html

(1)
 東京電力福島第1原発事故は、住民の生活を根こそぎ奪い、原発の「安全神話」を打ち砕いた。人口密度の高い国土に54基(今月19日付で廃止され た同原発4基を含む)もの商業用原発が建つ日本。50キロ圏に国民のほぼ1割の1200万人が住んでおり、被害を最小限に抑える体制の確立は急務だ。しか し、政府は防災指針も固まらないなか、関西電力大飯原発福井県)をはじめとする停止中の原発の再稼働へ突き進んでいる。原子力防災と、その最前線である 自治体の現状をまとめた。                          

 福島の事故を受けて、原子力防災指針の見直しを進めていた内閣府原子力安全委員会の専門部会は3月、中間とりまとめを出した。眼目は、従来原発から半径8~10キロ圏だった防災対策重点地域(EPZ)を緊急防護措置区域(UPZ)として30キロ圏に広げた点だ。

                         

 また、5キロ圏を直ちに圏外への避難を求められる予防防護措置区域(PAZ)とし、50キロ圏の放射性ヨウ素防護地域(PPA)では、放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積するのを防ぐ安定ヨウ素剤の準備を義務づける。

                         

 更に、福島事故で、入院患者や高齢者が避難中に亡くなったことを考慮。患者らを搬送する際に海路の活用を検討したり、移動による被ばくや疾患悪化のリスクを踏まえて病院内に一時待機したりすることを検討すべきだとした。

(2)
 指針は原子力防災の根幹であり、自治体の地域防災計画の基本でもある。だが、安全委から作業を引き継ぐはずの原子力規制庁の発足が遅れ、中間とり まとめを基にした指針の法定化のめどは立っていない。自治体からは「避難方法などの具体的な検討は国の方針が出てから」(茨城県原子力安全対策課)「防護 対策を取る範囲の細かい設定など方針を早く示してほしい」(青森県原子力安全対策課)との声も聞かれる。                          

 課題はこれだけではない。PPAで準備される安定ヨウ素剤は薬事法で医療用医薬品に指定されており、配布や服用には処方箋が必要だ。原発事故時、限られた医師や薬剤師らが現場で全てに対応するのは現実的に不可能で、医師法薬事法の改正も必要になってくる。

                         

 事故時の緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)も検討課題。現在はいずれも原発近くに立地 し、代替施設もほとんどが10キロ圏内にある。福島第1原発事故では約5キロ離れたオフサイトセンターが機能せず、原発から約60キロの福島県庁に拠点を 移した。その教訓から、安全委は原発から十分離れ、交通・通信の確保が容易な場所に設置するべきだと提言。一方で、なるべく近くに避難誘導や被ばく医療な どの拠点を設ける必要性にも触れている。

(3)

 いつ起こるか予測できない震災、原発事故。安全委の栗原潔・管理環境課長補佐は「国の指針ができるまで何もしないのではなく、少しでも手持ちの材料で避難計画を作ってほしい」と呼びかけるが、住民の避難計画の見直しを行う原発周辺自治体は混乱している。

                         

 ◇「30キロ圏内」導入 「線引き」「輸送」難問次々

                         

 原子力防災指針の確定が遅れていることに加え、関係自治体に予想もしなかった難問を突きつけているのがUPZの導入だ。

                         

 中部電力浜岡原発を抱える静岡県原子力安全対策課の担当者は「避難手段や避難先を考える前段階で議論が 止まっている」と焦りをにじませる。例えばUPZの線引きをどこにするのか。市町村から「『隣は逃げるのに、こっちは逃げなくていいのか』と住民に尋ねら れると説明が難しい」と困惑の声が寄せられる。

                         

 原発事故では自家用車による避難も検討している。しかし地震や津波との複合災害の場合、自家用車を使わないよう呼びかけてきた東海地震の防災対策との整合が取れなくなるという矛盾も抱える。

(4)

 従来のEPZにはなかった、隣県にまたがるケースも悩みの種。最も複雑なのは、西の長崎県と東の福岡県も対象となる佐賀県の九州電力玄海原発だ。 離島の長崎県壱岐市(人口約2万9000人)は南の一部が30キロ圏に入る。事故があれば住民は島の北部に逃げるしかない。市の担当者は「最終的には全島 民が脱出しなければならないと思う。しかし、フェリーも飛行機も小さくて大量輸送できない」と話す。そもそも空港は30キロ圏内で、圏外にはフェリーの着 岸できる港が一つだけ。避難するなら福岡県のほうが近いが、県同士の調整が必要となるため、こちらもめどが立っていない。

                         

 一方、佐賀県境に接する福岡県糸島市は約1万5000人が玄海原発の30キロ圏内に住む。市はバスによ る避難を想定しているが、隣の佐賀県は自家用車による避難を前提としている。「佐賀県から逃げてくる車で渋滞しては困る。県のほうで調整してもらうしかな い」(同市担当者)

(5)

 更に50キロ圏になると、大都市・福岡市の一部が入って対象人口は急増する。安全委の案を受けて同市は今年度、40歳未満の市民21万人分の安定 ヨウ素剤購入費191万円を予算計上した。しかし、薬事法で処方箋が必要な薬に分類されているため、当面は備蓄する方針。「事故が起きてから配っては間に 合わない。配布が可能になったとしても、きちんと各世帯で保管してもらえるのか。課題は大きい」と防災・危機管理課の担当者は話す。

                         

 ただ「国の指針が定まってから検討する」など「待ち」の姿勢の自治体も少なくない。

                         

 99年のJCO臨界事故の際、国に先んじて避難指示を出したのは茨城県東海村だった。福島事故でも、福 島県は国より約30分早い午後8時50分に2キロ圏内の避難指示を出した。震災はいつ起きてもおかしくない。国の指示を待たずにできることを探る柔軟性と 機敏さも求められている。

                         

 ◇ヨウ素剤配布対象、国民の10人に1人

                         

 原子力安全委員会が、重点的な防災対策を求められる区域を、EPZ(半径8~10キロ圏)からUPZ(同30キロ圏)に拡大する防災指針案をまとめたことで、対象の市町村の数は44(同10キロの場合)から135に増える。

(6)

 圏内で何人が生活しているのか、地図で見ればより鮮明だ。埼玉大の谷謙二准教授(人文地理学)は、05年の国勢調査に基づき、原発周辺の人口を集 計した。その結果によると、10キロ圏の71万1531人(うち5キロ圏内=PAZは15万6312人)がUPZでは442万2人と6倍余りになる。

                         

 安定ヨウ素剤配布などの対策を取るPPA(50キロ圏)では更に膨れ上がる。福井市全域や福岡市、鹿児島市の一部など人口密集地が含まれ、UPZの3倍の延べ1207万456人に増大。国民の10人に1人は日常的に原発事故への備えが必要になる計算だ。

                         

 実際には、福島第1原発事故で明らかなように、50キロ以上離れた所でも放射能汚染はある。ほとんどの国民が原発事故と無縁ではいられないのが実情といえる。

                         

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 ■ことば

                         

 ◇EPZとUPZ

                         

 EPZは「Emergency Planning Zone」の略。国の原子力防災指針で、事故に備え て住民への連絡手段確保や屋内退避、避難方法の周知など重点的な防災対策を求められる原発から半径8~10キロの範囲を指す。UPZ(Urgent  Protective action planning Zone)は国際原子力機関が事故時に周辺住民の被ばくを回避する対策を取るよう勧めていた範囲 で、原発から30キロ圏内。

                         

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(7)
 この特集は、日下部聡、袴田貴行が担当しました。(グラフィック勝又雄三、編集・レイアウト鈴木陽一郎)

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