「北の山・じろう」時事問題などの日記

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公共事業や補助金ばらまきだけでは日本経済は再生しない。建設業者から農家に転じた業者が語る「自助努力を支える構造改革こそがイノベーションを生む」

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井上久男「ニュースの深層
公共事業や補助金ばらまきだけでは日本経済は再生しない。建設業者から農家に転じた業者が語る「自助努力を支える構造改革こそがイノベーションを生む」
 2013年01月09日(水) 井上 久男
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▼全文転載


(1)

 安倍内閣がまとめる2012年度補正予算案で、公共事業に国が約2兆円を支出する方針が固まりつつある。すでに多くのメディアが報じた。自民党が 掲げる「国土強靭化計画」の下、国土交通省が実施する橋梁や道路、港湾などの整備に充てられる計画で、農水省が行う公共工事にも予算を充当させるという。

 公共事業の拡大は、景気の底上げ策のひとつである。金融緩和策を受けての円安と相まって、株式市場も敏感に反応し、1月4日の「大発会」でも日経平均株価の終値は、「大納会」の終値から292円93銭上昇して10688円を記録、東日本大震災前の水準にまで回復した。

選挙対策で土建業者を救済するための公共事業は必要ない

 筆者は景気が回復することを否定するつもりはない。しかし、景気対策も含めた経済政策には短期的な視点と長期的な視点の両方が必要である。公共投 資拡大や金融緩和は短期的な対策にしか過ぎず、日本経済を本当に強靭化していくには、市場原理を利かせた構造改革は欠かせないはずだ。それを忘れて、「安 倍相場」に浮かれていては、将来に禍根を残すだろう。

鈴鹿政秀氏

 公共事業で潤うはずの土建関係者の中にも、構造改革を伴わない公共事業の拡大を否定的に捉える人もいる。その一人が、滋賀県大津市の鈴鹿政秀氏(40)だ。

「地方に道路を建設するなどの公共事業はそんなに必要な時代ではないと思います。雇用のために公共事業が必要というのであれば、別の新しいビジネスを起こす方に力を入れた方がいい。農業もやり方次第では成長産業になります」と鈴鹿氏は語る。

 鈴鹿氏は5年前まで地元で道路や河川の修繕などを行う土建業を営んでいたが、廃業した。鈴鹿氏の父が社長だった鈴鹿建設は、業績がピークだった 20年ほど前には従業員30人を抱え、売上高は5億円近くあった。しかし、公共事業の削減で仕事が激減、「県や市が発注する工事が大半でしたが、廃業する 直前は仕事量が全盛期の10分の1になっていました。従業員の方にも辞めてもらって、最後は私と父の2人だけでした」と鈴鹿氏は振り返る。

 それでも鈴鹿氏は「安全に問題がある古い橋や道路を修繕することは必要かもしれませんが、選挙対策で土建業者を救済するための公共事業はもう必要 ありません。田舎で人があまり通らないこんなところに道路を造って何の意味があるのかと、常に疑問抱きながら仕事をしていました」と言う。

(2)

 鈴鹿氏は土建業を廃業、周囲の耕作地放棄地の存在に注目し、それを活用して米農家に転じた。もともと土建業の合間に農業はしていたので自作地は 80アール(8反)ほどあった。耕作地放棄地を借りて稲作に取り組み始め、5年前から専業農家に転じた。屋号は「びわこ農業」にした。

 鈴鹿氏が稲作をしている「上田上(かみたなかみ)地区」は清流が豊富で、寒暖の差が激しいため、1300年以上も前の天智天皇の時代から美味しい米ができたと言われる。その近くで収穫される「たなかみ米」は昭和天皇への献上米としても知られる。

 しかし、周囲を見渡すと耕作放棄地が増え、しかも兼業農家は補助金を頼りにした守りの経営しかしていない。そこで「美味しく安心安全のお米を復活させたら、少々高くてもお客さんに評価されるのではないか」と考えたことが転身のきっかけになった。

新しい価値を生み出そうとしている企業や人に国は投資すべきだ

 鈴鹿氏は自分の土地に耕作放棄地なども加え、減農薬減肥料でコメ作りを開始した。まず、収穫したコメの成分を解析して他産地との比較を徹底した。たんぱく質の含有量が少ないほどコメのうまみは増すため、それを調べる狙いだった。

 肥料を多く与えるとたんぱく質の含有率が増えてうまみが減る代わりに収穫量は増える。肥料を減らすとたんぱく質の含有率が減ってうまみが増える代 わりに収穫量は落ちる。鈴鹿氏は、あえて肥料や農薬を大幅に減らし、収穫量は減っても美味しいコメの栽培に挑戦することに決めた。

 こうした取り組みが奏功し、たんぱく質の含有量が新潟魚沼産コシヒカリを下回った。収穫量は平均の半分以下に落ちたが、味が評価され、スーパーで 売っているものよりも4倍の価格で売れるようになった。「まぼろしのお米」とPRし、農協経由では一切出荷せず、口コミやインターネット経由で販売を増や した。筆者も味見をしたが、冷ご飯になっても味が落ちず、むしろおにぎりなど冷ご飯になった方が味はよくなる感じを受けた。

 銀座の和食店「穂の花」も「まぼろし米」の購入するほか、お店にパンフレットを置きPRでも支援する。オーナーで、銀座社交料飲協会理事(銀座緑化部長)の白坂亜紀さんは「まぼろし米」購入の理由をこう説明する。

「まず銀座の関係者らが開く交流会に鈴鹿さんが小まめに来ていることを評価しました。消費者に生産者の顔が見えることを意識しており、これからの農 業を支える人だなと感じました。栽培方法などにストーリーがあるのも興味深く、これは銀座の飲食店にとっても付加価値になるのではと思いました」

 このほかにも、長谷工グループなど企業向けに「まぼろし米」を販売。長谷工では、リフォーム工事などを行った顧客に対しての御礼の品として提供し ている。地元大津でも噂が広がり、オーナーシェフの料理店が「まぼろし米」を採用した。現在は輸出も検討しており、市場開拓のために鈴鹿氏は海外にも売り 込みに出かける。自分の足で稼ぐ営業をモットーにしている。栽培面積は最初の5ヘクタール(50反)から10ヘクタール(100反)にまで増えた。

(3)

 今は農業で家族を養えるようになった。また、一定の実績を出したことで農業の経営手腕も評価されるようになり、「大企業の遊休地を活用して大規模 農業をやってみないかと声をかけられるようになった」と鈴鹿氏。「農業で雇用を増やし、日本のGDPを押し上げるというのが私の志です。今、公共事業を増 やしても経営が衰退している地方の土建業者の延命措置にしかならない。無駄な公共事業に税金を使うくらいなら、新しい価値を生み出そうとしている企業や人 材に国は投資すべきではないか」とも言う。

自助努力

 顧客から「まぼろし米」の需要が多いため、鈴鹿氏はさらなる事業の拡大を目指すが、その一方で、これ以上拡大すれば機械などの設備投資を増やした り、新規雇用をしたりしなければならず、借入金ができて経営上のリスクが発生するため、現在、どうするか躊躇している。鈴鹿氏のような自助努力する経営者 に低利で資金が回る、あるいは補助金が行き届くような政策が必要なのではないか。それが新たな税金や雇用を生み出す「生きたカネ」になるはずだ。

 鈴鹿氏の農業での年間売上高は、まだ1000万円程度と零細経営には変わりない。しかし、ほとんどゼロの状態から農業に挑戦し、わずか5年で自立 した農家に「変身」した。農業だけに限らず、こうした自助努力する人材や企業がさらに成長するようなシステムを作ることが政治の使命のひとつであり、真の 経済再生につながると筆者は信じる。通貨を大量に刷って市場に出して円安・株高を誘導したり、無駄な公共工事を増やしたりして一時的に景気が浮揚すること が経済再生ではない。

 市場の原理で退場すべき企業には退場してもらい、その代わりに新しいビジネスを育てていく構造改革なくして真の成長はあり得ないのである。その際 には「自助努力」というのがキーワードになる。リスクを取って新しいことに取り組むことを妨げない国にしなければならない。こうした国家の姿勢が国外から も新たな投資を呼び込むだろう。

 これは野放図にして何でもOKという話ではない。法律や守るべき社会通念はしっかり守ったうえで新しいことに挑戦するという意味である。事前に何 でも規制してしまうのではなく、事後に監視して違反などがあれば厳しく取り締まることでもある。平たく言えば、お金を払って新幹線に乗るのは当然だが、搭 乗者全員を車内で改札するのではなく、改札した際に切符を持っていなければ「罰金」を高く取ることと考え方が似ている。

 実際、新しいことへの挑戦に対して日本は「障害」が多い。鈴鹿氏の場合も苦い経験がある。餌にこだわる養鶏農家との契約栽培で飼料米を食用米と同 様の手法で栽培している。減化学肥料によって、地域の10アール当たりの平均収量(497キロ)の半分しか作らない契約だ。減反した田んぼで飼料米を作れ ば10アール当たり8万円の補助金が出る。地元の農政事務所に収穫量などを記載して申請書を出したところ、「申請書に497キロと書かないと補助金は出な い。契約書を書き直してほしい」と言われたそうだ。鈴鹿氏は「付加価値の高いコメを栽培することを農水行政が邪魔するに等しい行為」と憤る。

(4)

 飼料米をしっかり育てずに補助金だけを取ろうとすることを防止する意味もあるのだろうが、確かに鈴鹿氏が言うようにこれでは自助努力を妨げる農水行政と言えるだろう。

 第二次安倍政権の経済政策は市場で一定の評価を得て、株価も上昇し始めたことは事実である。また、農産物の輸出を倍増させるなどの成長戦略も打ち出そうとしている。繰り返すが、そこで大切なのは、自助努力を伴った構造改革である。

 こういう指摘をすると、日本では現在、「新自由主義者」のレッテルを貼られる傾向にある。また、長引く不況で新しいことに挑戦する意欲が衰退し、 自助努力ではもはや打つ手はなく、政府にすがるしかないという意見も増えたように感じる。円安が製造業の競争力回復の決め手になるといった短絡的な論調も 多い。しかし、こうした政府の政策はあくまで補助に過ぎない。

 日本は資本主義経済の中で位置づけられている以上、個々のプレーヤーが競争に勝つために絶え間ない自助努力によってイノベーションを起こし続けて いかなければならないのである。これは宿命である。公共事業の拡大や補助金のばら撒き、通貨政策による円安誘導だけでは真の経済再生は成し得ないというこ とは断言できる。

 

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