元外交官・東郷和彦氏に聞く(上)「右の人の平和ボケが怖い」<日刊ゲンダイ 2014年3月>
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元外交官・東郷和彦氏に聞く(上)「右の人の平和ボケが怖い」
2014年3月16日
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※全文転載
安倍政権がスタートしてから、中国、韓国だけでなく、アメリカとの関係もおかしくなっている日本外交。唯一、うまくいっていた対ロシア外交も、ウクライナ 問題が発生し、揺らぎ始めている。日本外交はどうすればいいのか。元外務省欧亜局長で京都産業大教授の東郷和彦氏に聞いた――。
■戦争になるという勘のない人が「反中」で騒いでいる
日本周辺の国際情勢は、2012年9月に中国の国境警備艇が尖閣諸島の周辺を侵犯するようになってから大きく変わったと思います。中国政府は1971年から自分の領土だと主張していましたが、2008年までは主張は穏やかでした。
ところが、2008年に中国の警備艇が日本の領海に入り、「ここは中国の領土だ。これからは実効支配の実績を積み重ねる」とハッキリと意思表示した。多 くの日本人はピンとこないかもしれませんが、これは恐ろしいことです。実力行使するということですからね。でも、その時は1回だけでした。
しかし、2010年の中国漁船の衝突事件から、2012年9月の日本の「国有化」を契機にして、いま1週間に1回の割合で中国船が日本領海に入ってきている。
日本は、ロシアと韓国に領土要求していますが、もし、北方領土の領海と竹島の領海に、領有権を主張する海上保安庁の船が入ったら、間違いなく砲撃されるでしょう。
尖閣周辺では、そうした異常事態が1年半、毎週、起きている。意図的か偶然かは別として、海上警備の船が実力行使をすれば、海自と海軍の登場をまねき、一気に戦争にエスカレートしかねない危険な状況が1年半も続いているということです。
■日本がいま国際社会でやることは外交力の強化
それでは、日本はどうすればいいか。答えは2つしかありません。ひとつは「抑止」です。こちらが力を持つことによって、相手が領海侵犯した場合、叩き返 す備えを持つことです。もうひとつは「対話」です。こちらが軍事力を強めれば強めるほど、相手は脅威に感じる。だから、軍事力を強めるのは戦争をするため ではなく、戦争が起きないようにするのが目的だと相手に分からせないといけない。
「抑止」と「対話」。ひとつだけでは駄目です。対話をせずに武力を強めることが、どんなに危険なことか、ほとんどの日本人が分かっていない。「憲法9条」 によって、日本は戦争とは関係ない国だという意識が染みついている。いわゆる「平和ボケ」です。最近の現象で一番怖いのは、右の人の「平和ボケ」です。 「対話」が失敗した時、戦争になるという勘のない右の人たちが、大きな声で「反中」を騒いでいる。戦争になりかねない時、相手を挑発してはいけない。
中国の脅威に直面している日本がいま国際社会でやることは、中国以外の国との関係をよくすることです。対象国は、アメリカ、ロシア、韓国です。この3カ 国とよい関係を築くことが日本の外交力を強める。大きな声で「反韓」を訴えている人たちは、そのことが分かっていません。
安倍首相が昨年末、靖国を参拝したことで、アメリカとの関係まで危機的になっています。
アメリカは世界政策の焦点を中東から東アジアに移そうとしています。なぜ、東アジアに移そうとしているのか。中国の台頭というこれまで経験したことのな い問題に直面しているからです。9・11以降、アメリカはアフガン、イラク戦争で傷ついた。アメリカの国力が弱まり始めたタイミングで、中国の台頭という 問題に向き合わざるを得なくなった。中国の台頭は、アメリカの国益にとって、もっとも大きな問題になりつつあるのです。(つづく)
【とうごう・かずひこ】1945年生まれ。東大卒。外務省入省。条約局長、欧亜局長、在オランダ大使などを歴任。
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