「北の山・じろう」時事問題などの日記

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この国と原発:第6部・輸出の最前線で今/上(その2止) 悲願へトルコしたたか<毎日新聞>

毎日新聞
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この国と原発:第6部・輸出の最前線で今/上(その2止) 悲願へトルコしたたか
毎日新聞 2012年07月11日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120711ddm002040062000c.html

▼全文転載

(1)

 <1面からつづく>

                         

 ◇リスク避け、受注国側に丸投げ

                         

 トルコ最北端のシノップ市中心部から西へ約7キロ。黒海に突き出したインジェ岬の断崖の下には青い大海原が広がっていた。無数のカモメが空を舞い、時折イルカがジャンプする。

                         

 日本が受注を目指すシノップ原発の立地予定地は、26年前に原発事故が起きたチェルノブイリから約 1100キロ。漁業と観光が主産業のこの町では、建設に反対する声も少数ではなく、現市長は09年に反原発を掲げて当選。市役所には、チェルノブイリ事故 を扱った映画上映のポスターが多数張られている。

                         

 建設予定地の海岸まで案内してくれたハレ・オウズさん(58)は、00年代に入り、肺などのがんで親戚5人を亡くした。トルコ政府は事故との因果関係やがんの増加自体を否定するが「どの家族にもがん患者がいる」とオウズさんは政府への不信感をあらわにした。

                         

 一方、シノップは「経済・政治的に無視されてきた町」(トルコ紙)でもある。唯一の大規模工場だったガ ラス工場も90年代後半に閉鎖され、大口雇用先は失われた。若者は約550キロ西のイスタンブールなど大都市へ流出。トルコ全土で90年から07年の間に 人口が25%増えたのに、ここでは27万人から20万人に減った。

(2)

 雇用創出への期待から投資を望む声も強い。冷戦時代にあった米軍基地で約15年間、飲食関係の仕事をしていたというチェティンさん(52)は今、 タクシー運転手。「シノップは夏の2カ月だけ観光客が来る。残り10カ月は『冬』。なぜフランスや日本のように原発をつくって仕事を生んだらいけないん だ」と話す。「政府が『安全だ』と言うんだから、それを信じる」                          

 地元紙「シノップ・プスラシ(方位磁石)」のハサン・ドリュク記者(27)によると、ビデオを使って取材すると2対1で「原発反対」が多いが、オフレコなら商店主らが「賛成」に回り、実際の賛否は半々になる。

                         

 東京電力福島第1原発の事故後の反応はどうなのか。エルドアン首相は「何事にもリスクはある。プロパンが爆発するからといって、家で使うのをやめますか」と発言し、国民不信が高まった。だが、シノップでは、日本という“ブランド”にすがるような思いも見られる。

                         

     ◇

                         

 トルコ政府にとって、原発建設は悲願だ。02年から単独与党の公正発展党(AKP)政権は、強力に原発 建設計画を推進。主要20カ国・地域(G20)の中で中国に次ぐ高い経済成長を遂げ、電力需要が20年までに倍増するとの試算もある。電力の約80%は天 然ガス、石炭に頼っているが、全体の約75%をロシア、イランなどからの輸入に頼っていることが、安全保障上の懸念も高める。

(3)

 トルコ外務省でエネルギー問題を担当するミトハト・レンデ大使は「日本は原子力で自前の技術を確立し、しっかりしたエネルギー政策を持つよきモデ ルだ」と語る。トルコは40年までに、エネルギー需要を再生エネルギー、石炭・石油、天然ガス、原子力で4分の1ずつ賄う計画を立てる。

                         

 トルコ初の原発はロシアの技術で地中海沿いのアックユに計画されている。完成予定は19年。原発建設費 は全額ロシア側負担で、トルコは今後15年間の電力購入契約を結び建設費相当額を分割払いする。トルコはこの契約で巨額の資金調達を免れただけでなく、電 力供給が予定通りできなかった場合のリスクもロシア側に転嫁。トルコ人学生の無償ロシア留学や原発建設工事の人員の70%、運転・保守要員の40%をトル コ人とする約束も取り付けた。自国の事業リスクを最小限に抑えつつ、技術移転や雇用創出は着実に進めるやり方で「一筋縄ではいかない交渉上手な国」(官邸 筋)とされる。2カ所目の原発計画がシノップ。アックユと同様の条件を受注企業に求めているとされ、日本の電力会社幹部は「日本と韓国とを競わせて、少し でも有利な条件を引き出すつもりだ」と身構える。

                         

 トルコは99年の北西部の地震で1万5000人が死亡した地震国。ユルドゥズ・エネルギー天然資源相は同じ地震国の「日本の技術」への信頼を語り続け、福島事故後も日本との協議を継続した。

(4)

 一方で、丸投げに近いトルコの姿勢は受注する企業にとって大きなリスクもはらむ。「自国の根幹に関わるプロジェクトに責任を取りたくないという国 (トルコ)に代わって、建設・運転・廃炉措置などに短くて100年、高レベル放射性廃棄物管理などに長ければ数千年の責任を負うことは、『民間の』商売と してはできない」と警鐘を鳴らすのは日本原子力産業協会国際部の中杉秀夫調査役。福島の事故を経験した今、したたかな新興国を前に国内メーカーの不安は強 まっている。

                         

 ◇日本3社、米仏企業と連携 新興国で受注活動

                         

 東芝、日立製作所三菱重工業の国内原発メーカー3社は、米仏企業とも連携し、需要が見込める新興国な どで受注活動を展開している。東芝は子会社の米ウェスチングハウス(WH)と、日立は提携先の米ゼネラル・エレクトリック(GE)、三菱重工は仏アレバと 組んで、炉型などで互いの得意分野を生かしながら活動を展開。日系3社を含む日本企業連合は10年にベトナムとの間で2基の原発建設受注で合意した。

                         

 東芝は10年末にトルコとの間でいったんは優先交渉権を獲得。福島原発の事故を経て運営者として参加を見込んだ東京電力が脱落したことなどから、優先交渉権は失ったが交渉は継続し韓国などと競合している。

(5)

 WHは今年、米国で受注済みの6基のうち、4基について米原子力規制委員会から建設・運転の許可を受けた。米国での新規認可は34年ぶり。中国でも受注実績を持つ。

                         

 日立は3月、リトアニアとの間で建設に合意しており、近く正式契約を結ぶ。提携先のGEとの合弁会社が契約主体となる。かつて日立、GEなどによる日米企業連合でアラブ首長国連邦の受注を目指したが、09年に破格の条件を提示した韓国に敗退した。

                         

 三菱重工は米国では単独で2基を受注済み。ヨルダンでは、提携関係にある仏アレバと折半出資の「アトメア」を通じての受注を目指しているが、ロシアと競合している。

この国と原発 アーカイブ2012年
http://mainichi.jp/feature/20110311/konokunitogenpatsu/archive/news/2012/index.html

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